Rita

白鍵と黒鍵の間にのRitaのレビュー・感想・評価

白鍵と黒鍵の間に(2023年製作の映画)
4.1
夢見る男の"一夜"の出来事。

昭和63年の夜の銀座。場末のキャバレーで演奏していたジャズピアニスト志望の博の前に現れた謎の男にリクエストされて演奏した「ゴッドファーザー 愛のテーマ」。あの曲をリクエストしていいのは銀座界隈を牛耳る熊野会長だけ、演奏を許されているのも会長お気に入りの敏腕ピアニスト南だけだったのだ。

夢を追う「博」と夢を見失った「南」。ふたりの運命はもつれ合い、時空が交錯する。

本作は、原作であるジャズピアニスト南博による同名の自伝的エッセイに基づいた物語でピアニストとしてキャバレーや高級クラブを渡り歩いた3年間の青春の日々を綴った回想録だが、冨永昌敬監督は一夜の物語として描いている。

「南さんが銀座で過ごした3年間を、無理やり一晩の話にできないか」という考えから、南博を「南」と「博」と二人の人物に分け、3年におよぶ人生がメビウスの輪のようにつながる“一夜”へと誘う。

昭和レトロな当時の銀座のお洒落な雰囲気がとても好き。時代が大きく変化する前夜のジャズピアニストを夢見る男の青春期を描いている。過去と現在と未来の交差を一夜として上手くまとめて描いているのがとても面白い。"自分は今まで何をしてたんだ。"という南の夢や人生への大きな葛藤に私自身、人生の分岐点に立たされているようでならない気持ちになった。

ラストの展開が「世にも奇妙な物語」にありそうな話で、不思議な感覚ではあったけれど、主人公の決心と同時にボストン留学に必要な母子手帳が見つかったと言って届けに来たお母さんの登場シーンが南博の出発地点なのだとある意味鮮明な場面になっていたと思う。ポップな終わり方で私は好きでした。
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