むさじー

キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩のむさじーのレビュー・感想・評価

3.8
<歌声に平和への祈りを込めて>

1939年のポーランド(現ウクライナの都市)。ユダヤ人家族が住む家の2階に、ウクライナ人とポーランド人の家族が越してきて、民族や立場の違いからギクシャクしていた三家族だったが、無邪気な娘たちの歌を通して交流を深めていく。やがて世界大戦の戦禍に巻き込まれ、ソ連、次いでナチスドイツ、再びソ連の占領下に置かれる中でポーランド人とユダヤ人の両親は連行され、残された娘たちをウクライナ人の歌の先生ソフィアは自分の娘と共に守ろうとするが‥‥。
戦争で侵略された国では戦況が変われば敵味方の様相も変わり、国土収奪の嵐に翻弄されてしまう。ポーランドとウクライナとソ連の歴史的関係には馴染みが薄いので、当初三家族の微妙な対立関係が分かりにくく思えた。
しかし国同士が対立していても、子どもに罪はなく将来を託せるのは子ども、ソフィアはその思いだけで強い母親になろうとする。敵国兵士の迫害から守ろうとするシーンはスリリングで、その志と気迫からウクライナ出身で母親でもある女性監督の強い思いが伝わってきた。本作はロシアのウクライナ侵攻の前年に作られているが、どうしても今起きている現実に重なってしまう。
映画は戦争の暴力や窮乏生活をリアルに描くことはなく、抑え目に淡々と描いていく。やや美化し過ぎかとも思えるが、美しい歌声に平和への祈りを込め、戦争は悲しみと憎しみしか生まないと語る。早く平和な日々が訪れることを祈りたい。
むさじー

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