teriyaki

ナショナル・シアター・ライブ「善き人」のteriyakiのレビュー・感想・評価

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ドイツの文学者兼大学教授の主人公と、家族、ユダヤの友人との変わりゆく関係を描いた話。ナチス台頭時代の経緯を頭に入れてたほうがより理解できると思う。

主人公は過激な思想や性格を持ってるわけでなく、友人や家族想いのいわゆる善良な人だった。そんな彼が友人を見捨て、家族を見捨て、最後はいつの間にかナチスの最深部まで入り込んでしまう。

でも自分は彼に石を投げられないかもしれない。
親の介護と鬱状態の妻、子供の世話をしていた主人公にとって、政党からの高い評価や、豪華絢爛な社交場はまるで今までの自分が救われたような気持ちになったのではないか。新しい妻、いい屋敷、尊重される立場。それは自分が正しい行いをしていた見返りなのだ、と。
自分は政党の極端な思想に同調してるわけでもないし、残酷な行いに加担しているわけでもないと正当化しているからこそ、簡単に立場の弱い人を見放せる。こんな考えの人は当時も、多分今も多くいると思う。

主人公の頭で鳴っていたと思われていた音楽は、最後は実際に奏でられていた。暗い顔でそこに立っていた。でももう主人公には彼らの存在が響かないラストが辛かった。

部屋の隅のようなセットで出演者はほぼ3人。大規模な予算や派手な演出がなくてもいい演劇は生まれるんだと思わされた。こんなのが生で観られるなんてイギリス国民が羨ましい。
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