地底獣国

ナショナル・シアター・ライブ「ライフ・オブ・パイ」の地底獣国のレビュー・感想・評価

3.9
ミスターオカモトは何度か“truth”という単語を口にするのだが、実のところ彼の仕事上本当に大事なのは“fact”の方なんである。

最後に彼が報告書にあのような記載をしたのは、自分はパイに「聞いた者が信じられるような」truthを語らせたがっていたんだという事、後半語られるストーリーはまさにそのような内容だが、そこにfactだという証が無いという点では前半の話と同じだという事、「人は信じたいものを信じてしまいがち」という危うさに気づいたからなのかも。

多くの人にとって「物語」は生きていくうえでの必需品であり、パイにとっての「真実の物語」はリチャード・パーカーと共に過ごした日々の話であり、その物語にこそ彼がこれから生きていくための力が宿っているのだろう。

そして演劇は映像作品と比べて観る者が想像力を働かせ(見立てるとも言うが)、積極的に物語を信じようとするものであり、本作に於いてはこちらの想像力を存分に引き出す見事な演出とパペット操者たちの名演技が、この荒唐無稽な漂流記を魅力的な物語に仕上げている。

ついでに言うと、序盤のヒンドゥー教徒とムスリムとクリスチャンが互いに罵り合うくだりも素晴らしかったんでそのぶんもポイント🆙
地底獣国

地底獣国