木蘭

きっと、それは愛じゃないの木蘭のレビュー・感想・評価

きっと、それは愛じゃない(2022年製作の映画)
4.3
 実家がお隣同士という以外は全く様相の違う(でも母親同士は仲良し)家庭で育った2人が繰り広げる、王道の大英帝国ロマンティック・コメディ。

 もう観る前からオチが予想出来る話なんだが・・・それがどうした!・・・とばかりに迷いが無いし、主演の2人はキュートだし(キスシーンは、観ているこっちが照れちゃう)、脇を固めるのは各界の一流どころで安心出来るし、兎に角、良く出来ている楽しい一本。
 結婚式のダンスシーンだけは、今一つ切れが無いぞ。ちゃんとコテコテに煮詰めて、スパイス強めにして欲しかったぞ。

 この映画がコメディを装いながら伝えたかったテーマは、ともすると偏見や差別の目で見られているパキスタン系英国人やパキスタンへの理解との事。
 パキスタン系家族の葛藤や世代間ギャップを描いていたコメディ『ぼくの国、パパの国』を思い出した。

 ・・・とは言え、その目的は果たせている様には思えない。
 コロナ禍で現地撮影が困難だったという部分もあるにせよ、パキスタンのリアルが伝わって来ず、あくまでもお伽話の枠内でしかないからだ。

 親の愛は尊いけど、子供を理解出来るわけでは無いよ・・・という普遍的な話でもあるのだけど、異文化の伝統的な家族制度やお見合い結婚を素材にしているとなると事は複雑だ。
 異国の伝統文化を尊重する多様性を謳いながらも・・・それは僕らの文化じゃない・・・と、最終的には否定して普遍性を唱える分、柔らかな植民地主義を感じてしまう。それも否定はしないけど。
 その辺の葛藤は、ヒロインがドキュメンタリーを撮るという形で表現してはいる。
 パキスタン人に嫁いだ経験のある脚本家と、パキスタン生まれの監督の視線は、それぞれ主人公カップルに重なるのかも知れない・・・が、結局2人ともイギリス人なんだよね。そこが本当は大切な所。

 元々はイムラン・カーン前パキスタン首相の元妻で、ユダヤ系豪商ジェームズ・ゴールドスミスの娘にして著名セレブのプロデューサーであるジェミマ・カーンが、自身の10年間の結婚生活の経験を踏まえて、ステレオタイプじゃないパキスタンの姿を知って欲しい・・・と書いた脚本が、どこでどうしたかロマンティックコメディになった一本。
 元々、本人も元夫も、彼女の家族も、どうかしている(時に黒い)経歴の持ち主なので、全くパキスタンを理解する助けには成っていない気がする・・・。

 俳優と監督がかなり時間を掛けてキャラクター造形をした様だし・・・元の脚本は知らないけど、結構あれな内容だったのを、巧みな監督がなんとかロマンティック・コメディに落とし込んで形にしたのかもね。
木蘭

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