MASH

ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語のMASHのレビュー・感想・評価

4.0
ロアルド・ダール原作の映像作品で、監督がウェス・アンダーソン。名作『ファンタスティックMr.FOX』を生んだ組み合わせとなれば、映画好きなら期待せざるを得ない。ただ、今作は昨今のウェス・アンダーソン作品同様、かなり癖の強い作風となっている。

癖の強さはやはりその情報量。まず音での情報量。登場人物がセリフだけでなく状況なども、小説をそのまま読み上げているかのように喋るため、セリフがないシーンがほぼない40分となっている。それがロアルド・ダール作品のシュールな展開と掛け合わさり、映画や小説とはまた違う世界観を生み出している。また、ロアルド・ダールの視点から始まり、ヘンリー・シュガーの人生、そんな彼が影響を受けた人物の人生という多重構造が、より癖の強さを加速させている。

そこに更にこの監督ならではの映像による情報量、いやいつも以上のこだわりように目がチカチカするほど。アシンメトリーや登場人物の配置はいわずもがな。今作で特筆すべきは場面転換。常に場所が移り変わるのだが、その境目がまさに舞台装置のようにカットが入ることなく長回しのようなスタイルでどんどん変化していく。舞台なら一旦暗転してセットを変えるところを、休みなくどんどん変化させていく。だが、変に長回しにこだわることなく時にはカットを細かく入れるなど、非常に考え抜かれたバランスとなっている。舞台に強いこだわりを持ちつつ、常に映像作品としての限界に挑み続けているウェス・アンダーソンの拘りがギュウギュウに詰まっているのだ。

長編作品でなくなったこともあり、この監督の他には類を見ないスタイルがこの作品で爆発している。好きな人は大好きだろうし、その情報量の多さと忙しなさ(特に字幕だと)に嫌気がさす人もいるだろう。僕はというと、観ている間にも作品のテーマに浸る時間がもう少しあっても良かったのに、とは思う。ただ、時に観客を置いていきそうになりつつも、観終わった後には忙しなさよりも、人生の幸せとは何かをポツリと考えたくなる、そんな愛おしさを残してくれる作品になっているとも思うのだ。
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