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キングダム エクソダス〈脱出〉のHALのレビュー・感想・評価

4.7
ヒューマントラスト渋谷で15時間超えの『キングダム』I&IIと『キングダム エクソダス』一気見上映で鑑賞。夢と現実が混濁している可能性があります。善も悪もあることを心得よ。

冒頭に『キングダム』シリーズを鑑賞する老婆がおり「これじゃ未完結じゃない」と言って眠りにつくが、彼女は夢遊病者でありやがて家を抜けだしキングダムの病院にたどり着く……という出だしはわかりやすいし、回転ドアを自動ドアと間違えて入れず、センサーを邪魔していた?小鳥が飛び立つとそれが再び動き出すという場面が非常に美しく、これでもうお膳立てがバッチリ整っていたと思った。そこからは前シーズンを踏襲しつつ同じキャストや似たキャスト、果ては前作キャストの息子が現れるなど、現実と物語がどんどん混ざり込んでいく感覚が楽しい。しかもわりと軽く、言ってしまえばちょっとテンポ感も前シリーズからは物足りなくも感じるのだが、『ツインピークス リターンズ』のような物語の復帰とはまた違う雰囲気が楽しい。ていうかそのまま続投してるキャラクターがあまりにも変わってなさすぎて笑ってしまう。

過去の大きな時間の断絶があると人はたやすく傷を見つけようとしてしまうものだが、それがどこか演じられた傷のような、フィクショナルな過去を持っている人間の雰囲気があって妙にソワソワした感じがある。院長の息子とか本当へんなやつのままで安心した。そして最終章の見どころは前作で救済されなかったかに見える二人の弱者、脳手術の失敗で障害を持った少女と異形として生まれ落ち、自死を選ばざるを得なかったウド・キア演じるリトルボーイが救済されるかどうか。ここはずっと意識されていて、後半は少女が放逐されてしまったあのベルトコンベアが再び登場し、そこから降りた先はなんとオープニングの「沼」!自分は『ダークソウル』などのゲームシリーズを連想したが、ここが実際に描かれたことが最も嬉しかった。絵的な美しさも全く減衰しておらず、そこにはウド・キアの膨れ上がった頭部が……ここの寓話的な、残酷な童話のようなエピソードが一番好きだった。そしてもう一人、最終章で現れる悪魔代表のウィレム・デフォーはもう安定感がすごい。むしろ悪魔としては控えめなくらい。クライマックスはどんどんボルテージが上がっていくのであのエンドも自分としてはかなり満足がいくものだった。

ただ『キングダム』シリーズはオカルトや神秘的な体験もいいのだけれど、あまりにブラックでしょーもない病院内のゴタゴタの方が楽しく見れるので、中身が充実してそれがたとえ破裂して終わっても問題ない稀有なドラマシリーズな気がする。あ、あとはヘルマー医師の息子(デヴィッド・リンチみたいな髪型でカッコいい)が最後スウェーデンどデンマークを繋ぐ境界たる橋に取り残されていくのは上手い落とし方だと思った。前シーズンではヘルマー医師一人だけだったスウェーデン人が今回は多く登場し、国家間の小競り合い、言ってしまえばディスり合いみたいなシーンが多く、この地域の現代史をもって知っておくとよかったのかも。神話とかも。最後に末期のゴーストバスターズみたいになるチームアップ感がすき。ヤケクソでも諦めないのはえらいことだよ!元気が出ました。
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