YAEPIN

花腐しのYAEPINのレビュー・感想・評価

花腐し(2023年製作の映画)
4.2
うだつの上がらない中年オヤジ2人が、酒とタバコをバカスカやりながら今は亡き元恋人との思い出を振り返る、なかなかどうしようもないストーリーなのだが、何故だか嫌いになれない。
いやむしろめちゃくちゃ面白かった。
綾野剛の歌唱シーンを初めて見られたというだけで感無量の気持ちだ。

良くも悪くも、綾野剛、柄本佑、さとうほなみの3人が揃わなければ決して成立しない。
それに加え、3人に普段から悪い印象を持っていない観客も必要とするので、かなり危うさがある。
一歩間違えれば終始イライラしていた可能性すら孕む。

綾野剛演じる主人公の栩谷と6年共に暮らした女優の卵が、突然栩谷の親友と心中するという陰鬱な始まり方をするのだが、そこから心中の謎を紐解いていくでもなく、ただただ同じ女性とかつて恋人関係にあった人物と思い出話に花を咲かせるシークエンスが延々と続く。

2人は(それが同じ女性の話と気づかず)「いやあ、あいついい女だったよな」と、なんでもないことのようにやけにカッコつけて語っていくのだが、その実どちらも彼女自身には向き合えておらず、ただ己の弱さと寂しさを一方的に擦り付けていただけだった。
物語が進めば進むほど男性陣の情けなさが濃厚になっていき、語る本人たちももちろん自覚はしているため、ニヒルなユーモアに包まれる。
長回しの会話シーンやリアル(というより卑近)なセックスシーンにより、居心地の悪い馬鹿馬鹿しさが醸し出され、ブラックコメディとして成立していた。

2人の男性が元恋人との傷を舐め合っているだけではあるのだが、葬式は残された人のための儀式というように、残された2人が心の整理をつける映画として観ればしっくりくる。

さとうほなみ演じる祥子との日々はカラーで温かく彩られ、一方現在はモノクロで対比されていることを鑑みるに、彼女との日々は少なからず3人にとってそれぞれ「幸せ」だったのだろう。
祥子は祥子で、自分をしっかり見つめ、当て書きをしてくれる監督のことは決して選べなかった。

綾野剛の演じるキャラクターは、内省的で無力感を強く抱き、そのくせ自意識も強いという、個人的に綾野剛の魅力が最大限引き出される人物像で感銘を受けた。

柄本佑は若い頃の演技が時生そっくりで何度か見間違えた。
「初めてのセックス」演技が上手すぎて気まずい。

うっかりバカップルに正論をぶつけてしまい、水をぶっかけられる奥田瑛二も素敵だった。水を被っても渋い。

本作は、世界中で今年公開された映画の中で最もタバコの消費量が多い気がする。
その箱まだ切れてないの!?と何回も思った。
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