オクターヴ

首のオクターヴのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.7
受け身では、わかるまい。その細部に北野武がいることが。その純粋な瞳を限界まで研ぎ澄ませよ。刹那である。その刹那で見れるか?という真剣勝負であった。これは見逃す。とことん見落とす。拾えない。その瞳は曇ってるか?2023年における第1位映画となる大傑作。まず、最初の印象は「軽さ」である。戦国時代は命が軽く扱われるという意味の軽さではない。最初からサクサク観れてしまうのだ。初日で2回鑑賞したが、驚くほど疲労感がない。観やすいのだ。北野武といえば省略、無言、余韻というのが特徴だが、おそらく意図的に今回はその特徴を消している。いつもの北野武より説明が多い。つまり、省略の北野武ではないのだ。「説明しなくてもわかるよ」という部分が多々あった。しかし、それがダメという話ではない。あえてそれを見せることにより、意味不明というストレスがすべて消えている。この状態をベースにすることで、やれることも増えてくる。わけがわかることが時代劇「首」では重要なのだ。省略の美学を捨て、余韻すら消し、なお優先したかったことである。時代劇という娯楽は世代問わず誰が見ても楽しめるジャンルだということを北野武は誰よりもよく理解している。そこでそんなBGMいるか?じゃないのだ。あった方がわかりやすい。そして、加瀬亮が凄すぎる。圧倒的存在感のあるカリスマを見事に演じた。登場した瞬間に空気が変わる。台詞の抑揚とリズムがもう芸術の域である。ほぼ唯一の異質であった。織田信長を描きすぎなかったという意味では、これこそが今作における北野武の省略の美学である。もっと織田信長が見たかった。あと、能楽師である観世三郎太(監修は観世清和)による敦盛のシーン。ここが今作で最も好きなところ。生と死の狭間で織田信長だけが見えている空間、景色がある。それを象徴するシーンにも感じた。敦盛を楽しそうに鑑賞している織田信長の台詞に注目だ。また、合戦シーンは「戦の時間」というものを表現しただけに見えた。この無駄な時間を使わない感じもいい。全体的に間延びしなかった理由は、この合戦シーンの短さにあろう。おそらく部分だけを見れば何か足りないものがあるのだが、俯瞰して全体を通して見れば、わかりやすい物語が浮き上がってくるのだ。
何回でも観れる映画であった。