シズヲ

首のシズヲのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
3.7
「さっさと死ねよ!!」
「まだやってんのかぁ!?」

構想30年、北野武が送る時代劇。天下人・織田信長の跡目を狙う侍達の血生臭い狂想曲。北野武が豊臣秀吉を演じても当たり前のように“侍のコスプレをした北野武”にしか見えないが、異様な存在感と映画のムードで押し切ってくるので不思議な味わいがある。

冒頭から容赦なく繰り広げられるバイオレンス描写。血生臭い絵面と泥臭いディティールが主流の時代劇とは一線を画す殺伐性を構築しつつも、映像自体は豪華で何処か品があるのが印象的。“跡取り争い”によって潰し合う侍達の無情絵巻が物語のテーマとして据えられているものの、本作の肝は寧ろ武士道を嘲るようなブラックユーモアにある。全編を通して何処か滑稽な空気に満ちていて、残酷さや無情さに皮肉めいた笑いの要素がある。家康に土下座する秀吉一行のてんやわんや、長ったらしい切腹に秀吉が野次を飛ばす下りなどで笑った。

超胡散臭い秀吉、太鼓持ちで漫才役の秀次、飄々とした家康や利休、愛憎に翻弄される光秀や村重、戦国を駆け回る農民の茂助、常に頭がどうかしている信長など、登場人物はいずれも強烈。本能寺で舞いを見ている最中のぼやきと面持ちに信長の本質があるように見えたので、彼の内面の掘り下げはもうちょっと見てみたかった。そして本作、信長・光秀・村重を中心にして極めて明確な同性愛要素に満ちている。このへんは武士の衆道の反映であると同時に、『ソナチネ』など往年の北野武映画で見られるブロマンス性の発展形めいている。仁義なき世界で男達を繋ぎ止める絆としての愛憎関係がある。

尤も、思ったより諸々の要素は噛み合い切れていない。「武士達の皮肉めいた裏切り合い」「信長を中心とした愛憎劇」「農民・茂助の顛末」などが物語の軸足だけど、それぞれのプロットは絡まりそうに見えて微妙に平行線を辿っている。秀吉とかは愛憎劇にあんま関係ないし、茂助の話とかもぶっちゃけ信長や裏切り合いに対して特に相互には結び付かないんだよな。必要以上に込み入った物語がシナジーを発揮し切れていなくて、全編通して何処かゴチャついている。テンポ良く切り替わるブラックコメディ的な編集も、却って話のぶつ切り感を強めている。結果として本能寺の変などの歴史的事件が山場ではなく一種の通過点と化し、映画の筋書きが今ひとつ盛り上がらない印象。面白くなりそうな流れが何故だか面白くなり切らない。

傑作と呼ぶには些か散漫であり物足りないものの、北野武のドライな作風と殺伐とした絵面、滑稽なユーモアに関しては確かに貫かれている。「わいが侍大将やぁぁぁ!!!」と喚いて首級に拘っていた元百姓・茂助の執着が、最後は同じ元百姓である秀吉の身も蓋もない台詞によって蹴り飛ばされる皮肉ぶりは好き。改めて振り返ると、百姓出身の秀吉と異邦人の弥助などが武士道のアンチテーゼを体現したのが何だか面白い。
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