Kapporiya49

首のKapporiya49のレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.7
観終えて私が最初に心に浮かんだのは「そえじまくーーん!!!」という叫びだった。あれには驚いた!
あのチャドウィック ボーズマンが演じるはずだった弥助が出てくるのは不意を突かれた。

私は『座頭市』以降たけし映画を観ていなかったし、それ故に「戦国版アウトレイジ」と言われてもピンと来ていなかったが、予告編が面白かったので観てみた。

本作を観ながら思い出したこと。
世の中に同性愛という存在があることを知らずゲイという言葉もなかった大学生の頃、氏家幹人『武士道とエロス』という本を読んで戦国時代の知名度の高い武士たちのほとんどが男色に耽っていたということに物凄い衝撃を受けたこと、ドラマや映画でもこの要素を描いた方が良いと思っていたことを思い出し、我が意を得たりな内容だった。

たしか『武士道とエロス』は、命をあずけ合い生活を共にする戦友との関係性、年配の人間が若輩の者を指導する関係性から発展する恋愛をしていた、という内容だったと記憶しているが、本作ではそこまではっきり描写はされていないもののそういったムードを含んではいたのかなと感じた。

たけし監督は、テレビや映画で今まで描かれなかった戦国時代を象徴する男色、加えてこの時代ならではの命の軽さを描きたかったのだろうと思うし、これが過去に観たたけし映画の要素とも繋がっていたとも思う。

とにかく本作での人間の命は、過去に観たことがあるホラー映画や戦争映画に比べても軽いし、シニカルだし笑いのネタになる。
清水宗治の切腹に至るまでのシークエンスなんてメチャクチャ軽い。
冒頭から死体損壊描写だし、とにかく首が飛び、首が並び、首が転がる。
日本映画でこれほど首が転がる作品があったのだろうか?というくらい。

よくよく考えれば、映画とはいえこの命の軽さを現代の我々が受け入れるのは難しいはずなのに、本作ではすんなりそれを受け入れさせられてしまった気がするのは何故なのだろうか?観た直後の今はちょっと分からない。

役者陣はみんな最高でした。

たけし自身が秀吉を演じるというのが唯一の不安だったけど、浅野忠信と大森南朋とのトリオ芸で笑わせるという役目を楽しそうに演じていたと感じた。

加瀬亮の信長が素晴らしかったのは当然として。
印象的だったのはキム兄こと木村祐一。
表情から言葉遣いから素のまんまに見えたものの、歴史上の人物で落語の祖と言われる芸人であり、史実では後に秀吉の御伽衆の1人になる曽呂利新左衛門に、たけしが仮託した役割はとても大きい。
実際に物語を動かす役割であると同時に、彼が武将たちの間を行き来して驚いたり呆れたりすることで、我々観客にも「こいつらしょーもな!」と思わせる役割を担っていたと感じた。
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