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首のmitakosamaのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
3.9
長らく待った北野武の新作。そして初の時代劇。期待7割・不安3割だったが、見どころも多く個人的には凄い楽しめた。

題材は秀吉。確かに20年くらい前の北野ファンクラブとかでも秀吉の映画作りたいって言ってたもんな。その時は一夜城をテーマにしたかったらしいが、今回は違った。企画そのものをずぅーと練って紆余曲折あったのだろう。
構想20年というのがある意味不安材料だった。練ってる時間が長過ぎると、それはそれで失敗する例は多々あるからね。
それに、時代劇を演じるタケシの年齢問題があった。メインどころの西島・加瀬・浅野・大森・らは50歳前後で良いのだが、肝心の秀吉を演じるタケシが75歳だ。どう考えてもオカシイじゃん!秀吉だけが20歳も年上でさ(笑)しかも恰幅も良くって滑舌も悪く、加齢が誤魔化せてない。見る前は、正直言って北野武は監督に徹して、秀吉は他の役者に演じさせれば良いのに…と思ってた。

とまぁ不安要素もあったが、実際の映画は予想していた物とだいぶ違った。
秀吉の出世物語として、出世のために狡猾で周りを蹴落とす為には手段を選ばない非情なキャラクターを見せるのかと思った。
でもタケシ演じる秀吉は、野心家ではあるが策略家では無い。浅野忠信演じる黒田官兵衛に相談しながら、大森南朋演じる秀長と3人でワチャワチャする。常に「てめーバカヤロウなんとかしろよ!」って態度で、まるで軍団に対するリアクションと一緒だ。
ダークでヒロイックな秀吉像では無く、小憎らしくてチョット滑稽なオジサンとして描いている。
そうか北野武はこういう人間くさい秀吉を描きたかったのか。ならたけし本人が演じたのも納得できた。

物語は、遠藤憲一演じる荒木村重が信長に(加瀬)に氾濫し鎮圧される“有岡城の戦い”から。
純粋で実直な明智光秀(西島)は荒木を匿う。実は元々二人はデキていたという関係だった…ウホッ!まさかエンケンとシロさんの濡れ場があるとは…(笑)
それどころか信長と森蘭丸にも濡れ場がある。衆道を通して戦国時代を描くというアプローチも意外だが興味深い。

秀吉らは明智の秘密を探り出し、家康を巻き込もうとしたり信長の足下をすくおうと画策する。
結果、本能寺の変に導くという展開だ。

注目すべき役柄の一つとして、まず木村祐一演じる曽呂利新左衛門だ。知らなかったのだが実在したらしい、落語家の始祖で抜け忍とのことだ。
やはり“芸人”という存在は北野武において重要な役割だったろう。もしかしたら自身で演じたかったのかも知れない。それくらいこの映画に深く入り込んでいるキャラクターだ。歴史を作る側で無く、俯瞰して語る存在はストーリーテラーとしての役割も強い。北野武自身を最も投影したキャラクターだとも言える。

もう一人は中村獅童演じる茂助だ。侍に憧れ農民からの立身出世を目指したというのは、当然秀吉と相反する存在だ。このキャラクターを設けたことで秀吉像を多面的に見せている。

歴史物は群雄劇だ。多くの登場人物が活躍する物語故に、1人ひとりのキャラクターに多様性を持たせることが難題だが、茂助を用いて秀吉の裏の面を描いたのは流石の手腕だと言わざるを得ない。

そして時代劇は状況説明も多い。それ故に北野映画としては異例なほどセリフも多かったように思える。監督としてもチャレンジャブルな企画だっただろう。
またオフィス北野でなくなり初めての作品だったことも、作品に少なからず作用したのではと思われる。個人的にはオープニングの「K」マークが無くなったのは残念。
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