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首のTSのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
3.7
【甘くない戦国の世】78点
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監督:北野武
製作国:日本
ジャンル:歴史
収録時間:131分
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 2023年劇場鑑賞47本目。
 面白かったですよ。最初少し不安でしたが、新解釈を混ぜた定番の織田信長を軸とした物語は、ある意味斬新で興味深かったです。そして内容もさておき、やはりいろんな気づきを与えてくれたということでこの点数です。なぜなら、我々はやはり時代劇やNHKの大河ドラマで、戦の世界はなんだかカッコ良いと思っていましたが、それは事実とは異なるということを気づかせてくれたからです。確かに、テレビドラマでやるような時代劇は、戦のシーンはあれどスタイリッシュに、カッコよく描かれています。無論、凄惨に描いている作品もありますが、今作のように虫螻の如く人間の首が飛んでいく作品はそうそうないでしょう。タイトルの首からも分かる通り、今作のキーポイントは首でしょう。今ではあり得ない、人の首を斬るという行為がこんなにも常識的に行われていたことに唖然となります。グロいというよりかは生々しい。なのでR15は妥当というところでしょう。

 戦国時代の世。織田信長は天下統一に向けて次の手を考えていた。そんな中、信長の家臣である荒木村重が謀反を起こして姿を消すのだが。。

 北野武のことだから、生半可な時代劇はもってこないと容易に予想できました。しかもよりによって、星の数ほどある織田信長をテーマとした作品ですから、何か仕掛けてくるとは思っていました。今作の興味深いところは何点かあり、まずは斬首の描写。映像技術もかなり進歩していて、斬った後の首のリアリティはともかく、斬るところはかなり生々しいです。特に斬られた後の体側の首から血が溢れてくるのがかなり生々しいです。苦手な方はこのシーンを見るだけで退場せざるえなくなります。そもそも開始数秒で、頭部のない遺体が映り、首に虫が蠢いているので戦国時代の凄惨さが伝わってきてます。本気の戦乱の世を今から見せるのだよ、と言わんばかりの出だしです。ところが、誰かの首が斬られるということは惨たらしいことなのですが、当時の人からすると日常茶飯時。北野武演じる羽柴秀吉をはじめ、主要人物たちが割と呑気な会話をするのですから目が点となってしまいます。我々はシリアスなものを見さされているはずなのにどこかコメディなのです。このギャップが何だか凄いと思いました。
 で、有名人だろうが下郎であろうが一瞬の隙で退場してしまう有様。今作は山崎の戦いまでを描いているのですが、思ったより本能寺の変のシーンの出し惜しみをしていません。歴史事実なので述べますが、今作のキーパーソンであるはずの織田信長でさえ、最期はあっけないものです。このあたりは解釈がわかれますが、実際もこんなものだったのかもしれません。遺体が見つからないが故に、信長の最期は色々と美化されすぎなきらいがあります。

 さて、美化といえば面白いのは今作の信長の描き方です。僕は信長に関する漫画や映画をそれほど多く見ているわけではないのですが、今回の信長の描き方は異常でした。完全なる悪役であり、彼に共感できる者はいないでしょう。部下を労うこともせずに、機嫌を損ねたらすぐ暴力を振るう、現代のブラック企業の上司も顔負けするくらいの悪人に仕上がっています。このあたりの解釈はどうなってくるのでしょうか。織田信長って大体どんなメディアでも結構綺麗に描かれていると思うんですよ。何故なら織田信長は世界でも通用する日本史の有名人物であり、その織田信長がこんな極悪非道な人物だったのならば、日本の面目も丸潰れといったものでしょう。決してそんなルールがあるわけではないですが、我々はなんとなく織田信長を単なる支配者ではなく、悲劇の英雄と捉えているのではないでしょうか。ここは北野武の憶測なども入ってくると思うのですが、そんなに綺麗な人間はなかなかいない、特に戦乱の世なら尚更でしょう。今作の織田信長は正直なところ小物感満載であり、本能寺の変で死ぬのがわかっているのですから、どう死ぬのかに注目がいってしまいます。織田信長の無駄遣いと言われたらそれまでですが、このあたりも斬新な描き方で良かったと思います。

 あとは、今作が恐らく目玉としている男色要素でしょうか。LGBTの理解は昨今浸透してきていますが、中々誰もが見れるテレビを通じてそれを描くのは現状難しいと言えます。だからといって、実際にそうであったかもしれないことを隠し続けるのもナンセンスといえます。もっとも、かの有名な織田信長と森蘭丸の男色でさえ、はっきりとそれを書いた一次史料が見つかっていないので、創作といってしまえば終わりなのですが。。戦乱の中、男同士の絆の中から男色が出てくるという可能性も否定できません。とにかく、そのあたりの要素を堂々と描くのは特筆に値すると感じました。以上の点から、今作は他の類似作品と比べても、極めて異質な作品に仕上がっていると言えます。

 北野武の遊び心が随所に見えながらもシリアスで、戦国の世が決して甘くなかったということを静かに伝えてくれる今作。評価はわかれるでしょうが、北野武の新たな代表作として名を残しそうな予感がしてなりません。ラストはもう最高でしたね笑 あの終わり方はしばらく脳裏に焼きつきますね。
TS

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