umisodachi

首のumisodachiのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.6


北野武監督による時代劇。『本能寺の変』を独自の感性で描く。

あまり期待せずに臨んだのだが、とても面白かった。ギャグが多すぎるという感想もいくつか見かけたが、私は気にならず。それよりも、ちゃんと汚くて、ちゃんと残酷で、ちゃんと愚かで、でもちゃんと頭で考えていて……と、「ちゃんとした」時代劇だという印象が強かった。

登場するキャラクターがとても多く、ストーリーも非常にスピーディに進むので、歴史的な知識がゼロだと厳しいかもしれない(海外の人など)。でも、日本で教育を受けていればまあついていけるレベルなのでご安心を。

とにかく、命が軽いのがポイント。首がバサバサ斬られていき、すぐに人が死ぬ。死体には蛆がわくしとってもバッチい。なんというか、どこまでいっても物理的な殺戮として描かれていて、そこに美学がまったく介在していないのが良かった。首なんてとっちゃったら誰のかなんてわかんないよねえ、矢が飛んできて刺さったら痛いよねえ、みたいな素朴な実感で出来上がっている戦闘シーンというのかな。良い意味で全然かっこよくないのが素晴らしい。

敢えて言えば、引きの構図が全然ないのでスケール感や地理関係がつかみにくいのが難点。我々は地名を聞けば距離感がわかるけれど、引きの画を入れるか、日本地図を表示するなどの工夫があった方が良かったと思う。あれじゃ、姫路までめっちゃ近いのかな?ってなるよ。外国の人なんかは。

織田信長のキャラクター造形も素晴らしい。どうかしているのだが、武将(政治家)としては優秀という絶妙なラインを攻めるギリギリの表現。確かに、「ワンチャン説得できるかも?」と思わせるだけの理性が常に残っているように見えるので、臣下たちの行動も無謀には見えなかった。間違いなく本作のMVPは加瀬亮だろう。信長の肖像画に似てるしねー。

木村祐一の役だけが非現実的に感じたのと、やはり演技力の欠如が気になった。中村獅童がすばらしかっただけに、最も美味しい役を木村祐一が持って行ってしまったことにはちょっと不満。落語家の始祖だから芸人を持ってきたかったのだとは思うが……それならば本物の落語家で良かったんじゃないのかなあ。

ストーリーの要に衆道要素を持ってきたことに関しては、私はむしろ上手いこと構成したなと感じた。演者たちにも全然不自然さを感じなかったし。柴田理恵のシーンも含め、過剰演出の連続の中で良いアクセントになっていたとすら思う。それにしても、柴田理恵って芝居上手いよねえ!ちょっとしか出てこなかったのに、すごく立体的な演技で唸った。

異質だったのは西島秀俊。西島秀俊って全く演技が上手くないと思うので、そんな彼をどう生かすかが監督の腕の見せ所なわけだが、本作ではその下手さが「異物」となって見事に機能していた。柴田理恵の芝居を立体的と評したのに合わせると、西島秀俊の演技は平面的。他の人たちが過剰なテンションのアップダウンを見せているのに対して、西島秀俊だけが同じテンションのまま淡々と進んでいく。何を考えているのかわからないを取り越して、なんだかちょっと腹が立ってくる感じで、とても良い。良い人ぶって誰よりも残酷で行動に一貫性がなく、最終的には自分のことしか考えていない男を、あたかも不器用で真面目かのごとく表現しているわけだが、変に芝居が達者な人だと誰よりも目立ってしまった可能性があるだけに、ナイスキャスティングと言わざるをえない。狙ってやったらサムいキャラを、絶妙な滑稽さを保ったまま体現していた。

そして、音楽が良い!!ほどよく入れ込まれているダンス要素と共に、映画全体のリズムを支配していた。本作の醍醐味は、ベースにある緩さの中に、キリっと効かせる鋭さと緊張感。音楽的要素はそれら全体に品格とスピード感を与え続けていた。ラストも良かったな!ああいう幕切れ、大好き!人間とはなんて愚かで愛おしいんだ!!

あ、あと弥助を演じていた副島淳について「英語も上手かった」と書いている感想を見かけたのですが……彼が話していたのは英語ではなくてポルトガル語です!!!



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