ひれんじゃく

首のひれんじゃくのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.1
むむむ難しいぞ。ナポレオンに引き続き汚ねえ歴史シリーズ(そして両方とも首が吹っ飛ぶ)に恵まれて今年は締めくくることと相成りそうです。よかった。よいのか?
なんか私的には言葉にしがたい映画。トップガンマーヴェリックのときと似てるかもしれない。面白いけど何がそんなに刺さったのか具体的に挙げられないみたいな。無理やり言葉をひり出してみる。以下ネタバレ。




















・たけし映画は座頭市しか履修してないので他のものも観てたら類似点とか見出せたのかもしれない。だけどタップダンスのところとかでニヤつくことはできた。着物姿の日本人を踊らせるのが好きなんかな。

・なんというかもう「バトルフィニッシュ!レベルアップアイテムの『首』(ノーマルレア)(そこらへんの一兵卒)がドロップ!!」みたいなノリで首がボンボン飛びバタバタと人が死んでいく。冒頭に首なし死体が川で行き倒れていて、ぽっかり空いた穴からサワガニ?がわらわらと出てきてるところでもうよかった。やっぱなんか撮り方がオシャレだな。急に忍者と侍が空中戦し出すところ以外のアクションが全部良かった。服部半蔵の桐谷健太はクソ最高なんだけどありゃなんだ。戦国時代という蛮族の時代(鎌倉は?平安は?もあるものの)の凄まじさがフィクションながら伝わってきた。ああやって日本中の野山に死体がゴロゴロと転がってたんだろうな。そしてそこから武具を農民が剥ぎ取っていく。世も末だ。

・メチャクチャ荒木村重と明智光秀が恋人だし信長は蘭丸とも村重とも寝てるし他に誰かいたっけ?光秀とも寝てた???今気づいたけど濃姫の影も形もないし相関図が無茶苦茶になりそうで草生えてしまった。そうきましたか。しかし面白いのは別に彼らが寝てようと愛し合っていようと一切ストーリーには無関係だということ、というように私には見えた。村重は光秀にクソデカラブを抱きながら信長に謀叛を起こして説得に来た彼に口付けしようとして頰をひっ叩かれるし、2人でベッドインしてピロートークに家康を嵌める相談をしてるわけだが、光秀は普通に本能寺に突撃する際に「天下と武士の絆を天秤にかけたら天下の方が重いんだ、わかってくれ」って突き放して殺すし。愛してるからって特別何かがあるわけではないんですよね。葛藤があるわけでもなし、仰々しい演出があるわけでもなし。光秀的には信長を殺すという欲望の方が村重との愛より優先すべきものであり、邪魔なら排除するっていう情緒もへったくれもない淡白さがよかった。

・小さなことだけど新左衛門の古巣のボスの僧侶とかそこに住む人々、おそらく戦乱の後遺症や生まれつきの障害を持っているような描写(手足がない、小さい)がサラッと出てきて特になにも触れられずに全員死んで終わるのもよかったと思う。特別な意味付けは必要ないよね。

・信長の暴君っぷりがクソヤバくてそのせいか周りの誰も忠義だの誇りだの1ミリもない、身も蓋もない感じがすごくよかった。訛りそのままに部下を罵倒しぶん殴り刀に刺した饅頭を食わせマッサージしてくれた手に噛みつき光秀をクソいじめる。無茶苦茶ですよもう。人生のフィナーレたる本能寺でも蘭丸を介錯したあと弥助に「黄色い猿め」って怒鳴られながら殺されて首を取られるというあっぱれな死に様。このどこまでもロマンを排した汚え戦国がよかったです。語彙力がなくてよかったとしか言えない。炎の中で是非もなしと言うでもなく、人間五十年〜だのなんだの言うわけでもなく、部下に差別語吐かれながら斬り殺されて首もぎ取られるってすげえだろ。初めて見たこんな本能寺。

・侍大将になりたすぎる農民の茂助、そんな農民を拾って旅をする新左衛門と仲間たちも欲を抱いた者から破滅してくのがもうなんかね。なんだかんだ茂助に情が湧いてしまった新左衛門、片割れが殺されたのを捨て置けず駆け寄ってしまった仲間(名前がわからない)はみるも無惨な死に方をし。米が強奪され家族が皆殺しになってる様を見て「これで身も軽くなって首を取りにいける」と頭のおかしい発言をブチかまし行動原理がすべて「侍大将になるため首を取る」ことだった茂助が最後まで生き延びるという。いやでも死にましたけど。一緒に成り上がろうな!と笑ってた友達を殺してまでそいつが取った首を自分のものとし、死んだ味方兵の首を取ってまで武功を上げたと叫びたい欲の塊みたいな茂助なのでまあ死ぬのはそうですよねって感じではある。しかしそんなどうしようもない人でも六条河原で斬首された村重の娘のでんでん太鼓を後生大事に持ってたのがなんか歪な人間性を感じられてなるほど……???となる。そもそもその太鼓も執行後に剥いできた際に盗んだやつなので本当碌でもないんですが。

・秀吉、官兵衛、秀長(+蜂須賀小六、宇喜多忠家)の愉快な仲間たち本当好き。まあ全員狂ってるんですけどね……家康に取り入るも屈辱に怒り狂って懐の草履を即行で投げ捨てキレ散らかす秀吉、振り回されつつ兄のボケを捌く秀長、2人に振り回されながら頭脳派ポジとして光秀を嵌めて信長の後継ぎを引き寄せる官兵衛、3人に振り回される小六と忠家っていうバランスが申し分ない。癒しがここしかないので必然的に好きになるしかない。とは言ってももれなく全員毛利と信長の首欲しいマンなので終わってるが。こんなに仲良さそうなのに「おれが天下取ったらあいつらふたり(秀長と官兵衛)には死んでもらう」が結構ガチそうでこれまた終わってる。よく冗談なのかわからん発言をするキャラとして描かれてたからこれもタチの悪い冗談であって欲しい。どこかで指摘されてた見方を引きずってしまってるけど、味方の誰かに感情を持たない者しか生き残ってないんだよなあ。秀吉はちょっと微妙だけど先の発言だけ鑑みるに。家康側も家臣団仲良しだけどラブというほどでもないし。家康の影武者が死んでも表情変えずに「次連れて来い」って言ってる新解釈忠勝ほんますき。

・とにかく愛情だの友愛だの主君への忠義だの仲間意識だの何かしら他者に対する良性の感情を抱いた奴からメチャクチャな死に方をするのが何度も言うけど身も蓋もなくて大好き。史実と乖離してるとかはさておき、そういう精神的なやつではどうにもならない権力への狂気みたいなものがうかがえる。ラストの「おれは光秀が死んだことを確認できりゃどうでもいいんだよ」と秀吉が茂助の首を蹴飛ばして暗転するラストが本当痺れた。マジで人の命より首の方が重要なのが末法の世なんですよね。簡潔なタイトルと内容が一貫しててわかりやすい。

・ただ何を描きたいのかがよくわからないのと、あまりに首への欲求が強いせいで登場人物の感情が希薄なように感じられた。他のすべての感情を押しつぶすほどの狂気と欲望がテーマっていうんならまあよくわかる。しかしそれだと男色をほぼメインに据えた意味とかを考えてしまう。いや、意味はないのか?他の多くの異性愛映画のように。
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