ぼさー

首のぼさーのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.1
「信長2:50」「光秀・村重」「秀吉トリオ」「家康ズ」「茂助・新左衛門」という各お笑い芸人たちが自身の得意なコントや漫才を演じ、舞台裏も見せながら、勝ち残りをかけて戦っていく、エンタメショー作品。

◆信長2:50
キレ芸とハラハラさせるハプニング芸のピン芸人。
両脇にメンズを引き連れている。常に血管が浮き立ち身体を硬直させている。黒タイツ似合いそう!

◆光秀・村重
甘いマスクの光秀と人懐っこい村重が、生死のかかるような深刻な状況でBLする都会派シュール芸。しりあがり寿の真夜中のヤジさんキタさん的なやつ。

◆秀吉トリオ
秀吉、秀長のだべりに黒田官兵衛がツッコミするベタお笑いトリオ。

◆家康ズ
無限家康という鉄板ネタのシステムコント。

◆茂助・新左衛門
ボケもツッコミもこなせる関西の技巧派・新左衛門と天然ボケの茂助による掛け合い漫才。

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さて、M-1 2023の決勝戦出場者は、さや香と真空ジェシカ以外あまりよく知らなかったこともあり、M-1決勝戦は新鮮な気持ちで視聴できたのと、その後の各コンビの舞台裏を追った番組でもコンビの様子をニヤニヤしながら新鮮な気持ちで楽しむことができた。
そんなM-1 2023の視聴後に本作を鑑賞したので、M-1 2023視聴体験とすごく似た構造のものとして本作も楽しむことができた。
ちなみに本作が笑えたという意味ではなく、芸人コンビ達の個性を楽しむように、戦国武将たちの個性を楽しむことができたという意味である。

北野武監督はお笑い芸人という出自を生かし、日本のお笑い芸の様式を何とか作品に入れ込もうとしたのではないか。現代アート界は誰かの真似事だけでは決して評価されず、独自性を作品に投影しなくてはならないのだけど、世界の映画市場において、本作は芸人であり日本文化圏である北野武監督にしか作れない内容になっている。そういう意味で現代アート作品足り得ると考えられる。

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本作は信長存命のある時から光秀討伐までの主要大名の物語。
その物語は、恋愛映画にしたり、一人の兵の死を悲しむシリアスムービーにしたり、現代の社会問題を当てはめて社会派映画にしたり、いろんな作風や演出で作ることができる。
いろんな選択肢があるなかで、北野監督は、芸人戦国物語というコメディ映画には仕立てていない。映像美もこだわりながら、きちんと戦国時代モノのバイオレンス映画に仕上げている。しかしバイオレンスなんだけど深刻さや不快さはなく、"芸人仕立て"にすることで面白い人たちがわちゃわちゃいちゃいちゃしているように見せていると感じた。

一見エンタメっぽい軽さを纏っていつつ、日本の現代の時事文化を織り交ぜつつ、真面目に戦闘シーンを作り上げ日本の美しい景観を織り交ぜるという巧みさや複雑さ。非常に造詣が深いと感じる。

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余談だけど、信長が本能寺で能舞台を観ているシーンの能は平敦盛を題材にした『敦盛』という演目。平家物語では熊谷直実が子の年齢ほどの敦盛を討ち取るわけだけど、その直実の前に敦盛の霊が現れて討ち取る様子を舞っているクライマックスのシーン。
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