ノラネコの呑んで観るシネマ

キリエのうたのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
4.8
なんだかとても尊いものを観た。
2010年からはじまる、13年間に渡る歌唄いのキリエの物語は、一言で3時間のエモさの塊りだ。
まあ岩井俊二はいつもエモいのだが、今回は音楽物だけに特に。
冒頭の東映マークから、既に一筋縄ではいかない作品だと主張してくる。
タイトルロールを演じるアイナ・ジ・エンドの、独特のキャラクターと声質無しでは成立しない企画だろう。
一度聴いただけで、テーマ曲が頭に張り付いて離れない。
物語のバックグラウンドには東日本大震災の記憶が生々しく横たわり、その意味で文脈的には岩井俊二版の「すずめの戸締り」と言えるかも知れない。
最初から最後まで、全編音楽が鳴りっぱなしで、遂にはカラスの鳴き声すら音楽に聞こえて心を揺さぶってくる。
筋立てをこうしてああすれば、客を泣かせられるという普通の映画文法とは根本的に違う、いわば全方位から攻めてくる力技。
岩井俊二は映画作家として、大林宣彦の境地に近付いているのかも知れないな。
豪華過ぎる役者が皆いいのだが、特にエキセントリックなキャラクターを演じた広瀬すずは、新境地と言っていい素晴らしさ。
ところで、今回は庵野秀明の代わりに樋口真嗣がオヤジ役で出てたw
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