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キリエのうたのmoefloppyのネタバレレビュー・内容・結末

キリエのうた(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

地震が起きたとき、とにかく途絶えることのない連絡が欲しいと、相手が安全なところにいるのか青ざめて、遠距離をしていた日々を思い出しました。恐怖に襲われた時に、同じくらいの感覚で寄り添えあえるかが、自分にとって指標のうちのひとつになったように思います。

ずっと好きだった人と付き合えて、実った後もどこか不確信で、まるで片思いのままのように恋に落ち続ける日々を過ごすと、正気の沙汰でいることができていない自分に、奥の方に眠ってしまった自分だけは気づいているんです。平然と振る舞うものの。そこまでの深い狂気的な落ち方をした人にしかわからない感情が、強く表現されていて、キリエの好きでいて欲しい気持ちが痛いほど感じとれました。かわいい女の子のまま、陽気な姿だけを見せ続けて、愛されることを望み続ける、苦しいけどそのただただ好きな人がいる時間は、幸せのうちの一つでもあるように思います。

その愛にうまい答え方を見つけられない夏彦の様子も、痛いほど。口に出そうとするもなかなか伝えられない言葉とは裏腹に表情やら、単調な返事で充分、その先を伝えないことが結果的に優しかったのだと思います。

自分の感じた狂気的な恋愛は、もっと重たく苦しかったのに、岩井監督がこんなに美しく色彩を映し出すから、あぁこういう記憶にしてもいいのかぁなんて思いました。

サスペンスとか起承転結の激しい映画ではない中3時間頑張れるのか心配になってたけども、とんでもない、あっという間でした。

自分の思っていた価値観を改めてきづかされる機会になり、悲しい楽しいだけの単純な言葉では表現できない、どれも少しだけ足りない言葉でしか表現できないそれぞれの感情を垣間見れたように思います。

ひどく悲しい、
ドッとくるような過激な悲しさというよりも
ずっと抱えなくてはならない
消えることのない重たい悲しさを
どうしたらいいのでしょうか、という映画。
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