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キリエのうたのchiのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
4.7
心に爆弾を落とされたようだった。心が震えて震えて止まらなかった。呼吸が覚束なくなるほどの苦しさだった。

私は映画に私の心を震わせてほしいと思って見ているのだが、心が震えるというのは感動であったり、興奮であったり、心をかき乱されたり、さまざまある。本作で私は途中から本当に胸が苦しいほど震え続けた。個人的には本作は人の繋がりの物語だと思うので苦しい話ではないと思うのに、なぜこれほど苦しかったのかはわからない。
他にも理由はあると思うが、見ながら感じていたことは二つ。まず、希と夏彦のシーンがとてもとても好きだったこと。神社でのキス、病院の後のベッドの二人のショットが堪らなく好きだった。路花と夏彦の関係性も、ああいうの大好きなので堪らなかった。夏彦をじっと見つめて異邦人を歌う路花、高校生になって夏彦の家の2階でバレエを踊っている路花。松村北斗のファンではないが、彼の纏う雰囲気がとても良かったと思う。木の下で黒木華に「誰にも言わないでください、誰にも話したことなかったんです」という旨を言ったところも良かった。彼の贖罪だわな。
二つ目は震災。震災の描写については公式からも注意喚起されているが、東京にいた私ですらあのシーンは怖かった。地震がおさまった後、希が路花を探している後ろでずっと大津波警報がなっているのが怖くて仕方なかった。あの震災を私たちはずっと忘れないだろう。
上記二つ以外にはやはり、キリエの歌にあるのだと思う。音楽に詳しくないのでアイナ・ジ・エンドは名前を辛うじて聞いたことあるなくらいで初めて歌声を聴いたのだが、魂の歌だ。きっと彼女の歌がなければ、これほど私の心は震えなかっただろう。
路上フェスからラストにかけては本当に痛いほど心が震えた。エンドロールが終わって、拍手を送りたかった。私の心を震わせてくれてありがとう。私は生きているから、心を震わす。素晴らしい映画体験でした。


以下余談。
私はこれまで好きな映画監督として岩井俊二を挙げたことがなかったのだが、なぜ忘れていたのだろう。思い返せば、岩井俊二は私の心に何度も爆弾を落としていった映画監督だった。ファーストショットを見て感じた興奮そのままに最後まで駆け抜けたPicNic、唯一無二のスワロウテイル、10代のうちに見なかったことを後悔したリリイ・シュシュ、大学時代に学生新聞の記事にまでした花とアリス、レビューに短く「最高だ!」と書いたリップヴァンウィンクルの花嫁…と振り返ると何度も私に映画という衝撃を与えてくれた監督だった。もう忘れない。
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