せっ

キリエのうたのせっのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
4.5
若者を信じてくれる優しさ。

歌以外で声を上手く出すことが出来ないキリエという少女と、その周囲の人間関係を描く10年の物語。

物語の視点はキリエが小学生、高校生、20代の3つ。それらがバラバラに描かれながら徐々にキリエ、イツコ、夏彦3人の点が繋がっていく。それぞれがそれぞれに事情を抱え、辛い思いをしている。

1番辛い思いをして1番弱く見えるキリエを助ける話ではなく、全員ボロボロだけど何とかお互いがお互いを助け合って肩寄せあって何とか立っている若者たちの話。監督のすごく優しい若者たちへの眼差しを感じてめっちゃ良かった。

この話の中で本当に無力なのは、大人の方。社会のルールで若者を守っているように見えて全く機能していない、もはや逆に苦しめている。さらに、若者達に手を差し伸べてくる大人は、善意も悪意も関係なく特段プラスの影響を与えていない。

一方で、誰も助けてくれなくて辛くて死にそうになって大人に裏切られたって、自分たちで心を回復していく若者たち。自分たちの置かれる状況を大人のせいにもしない。彼らは彼らで助け合えるし支え合える。

何となくキリエ達ってトー横キッズみたいなもんだよなぁ。トー横は出てこないにしてもずっと新宿にいるし。あの子達は、そうやって肩寄せあっているしかない、でも一生そのままで良い訳もなく、かといって施設に預けたりするのが懸命とも思えない。この無力感。

最初にキリエを保護する先生が流す何もしてやれない悔しさからの涙が全てだったなぁ。どんな形であれ生きててくれ、そしていずれは自分の安心出来る住処を見つけて欲しいっていう優しい眼差しを感じた。
せっ

せっ