ネノメタル

キリエのうたのネノメタルのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
5.0
1.インプレッション
いやもう、一言でいうと(全然一言じゃないけど)最高で最強で最狂で最幸すぎる作品である!これは一晩寝かせた今でもまだ思うからこう断言したい、本作『キリエのうた』は岩井俊二監督作品の現時点での最高傑作である!!!
いや、あらかじめ断っておくが岩井俊二作品に関しては初期の『見知らぬ我が子』『夏至物語』辺りのドラマ群から『スワロウテイル』から『四月物語』やら『リリイシュシのすべて』から『花とアリス』やら『リップヴァンウィンクルの花嫁』からここ最近の『ラストレター』まで枚挙にいとまがないがほぼ全通してて全作品最低10回位以上は観てるくらいのサブカル抉られ野郎である私がこう思っているのだ。そんな面倒くさいマニアぶってる私がまさかの岩井監督に作品で過去の傑作群をブチ抜いてここまで真正面に向き合って、しかも真っ向勝負で感動するとは思いもよらなかった!!!ともうそんな事を思っている自分が一番驚いているのだから。いや〜もう人間生きてりゃ良いことあるわ、まさか岩井俊二監督作品でリリイシュシュに匹敵するどころかそれを超えるのではないかってくらいの超絶傑作に出会うことになろうとは!!!!
某シーンのヒリヒリ感やこれまた某シーンでのカタルシスが半端なくこれでもかってくらい泣かされた。

2.ストリートミュージシャンのリアル
主演のアイナ・ジ・エンドさんの演技も歌声も1ミリたりともブレも妥協もなく凄まじくて凄すぎて壮絶った(て同じ言葉の繰り返しやんけw)
アイナさんはほんと瞳の綺麗さが半端ないな、そう、彼女の瞳の奥にどこか悲しみを超えてでも人を信じようとする美しさと慈しみを讃ている。正に彼女の瞳には大海原が広がっている。その意味では彼女は日本のモーガン・フリーマンと言っても過言ではない(てもう感動しすぎて訳わかりませんw)。
そんなこんなで観終わった後電車内でしばらく放心状態であった。
これはストリートを中心としたインディーズ界隈の音楽映画であり宮城県出身の監督自ら描いた東日本大震災に向き合った魂の記録でもあり、その震災を経た13年にも渡る一人の女の子の人間ドラマでもありその全てでもありと言った感じで、それにしてもリリイの絶望的美しさも花アリやリップヴァンのアンニュイ感も初期作品に顕著な残酷さも総動員しつつベスト盤にならずむしろ全てを使って岩井俊二監督の人生哲学を3時間という尺に魂削ってぶち込んだ感がある。いやマジで某有名アニメ監督にではなくまさか岩井俊二監督に「君たちはどう生きるのか?」と問われている気がしたよ。
あと、よくあるファンだけしか知らないマニアなコミュニティを作ってしたり顔でテイスティング合戦に興じるようなマルチバースだとか知ったような言葉だけ折り込ませて好きな奴しか分からんやんみたいなどこぞのMがつく(あ、Dの方は好き、ちゃんと暗いからw)アメコミ映画だとかシモキタだとか丸眼鏡に古本屋だとかシネフィル界隈が喜びそうなキーワードだけ散りばめているあのサブカル監督界隈だとかイタい方向ではない万人に向けられたエンタメとしても成立しているのがとてもとてもとても嬉しく思う。
或いはヒリヒリとした痛い涙と感動の涙が交差する壮観な映像ランドスケープとでも呼称しようか。
あと補足的に私見を述べると『キリエのうた』は路上ミュージシャンの物語でもあるから、実際に優利香や植城微香などの現時点でインディーズで活動している女性SSWたちによるガチな路上も数多く観てる私にとって「その描写は少しファンタジー入ってるね。」とか「神の歌声だろうが神曲だろうがなかなかどんなに良いパフォーマンスしてもなかなか人々は足を止めて聞いたりしねえもんだよ。」とか「場所取り一体どうしたんだろ?」とか「そんな都合よくグッズ販売とかうまくいかないもんだよ。」とか私がこれまで現場で目撃してきた数多くの現実に照らし合わせてチェックするかの如く(笑)この辺りのシーンには正直ツッコミ入れつつ観てたんだけど敢えて言わんが最後の最後になってドドーンとした路上ライブでは必ず起こりうるリアリティある「あの」場面があってもう心ブチのめされたものだった!
敢えてこの為にリアリティを取って外したんだろうか?凄いわ。
てかむしろ、もう岩井監督は全てお見通してる。松坂珈琲というミュージシャンがライブ自主企画を持ち込むシーンとか私がよく行ったりする中野新橋のライブバーであるアトリエペガサスのミュージシャン達のやり取りを彷彿させたりイッコ(広瀬すず)が緑色のウィッグをつけて闊歩する姿とか関西中心に活躍してるSSWぽてさらちゃんを彷彿とさせたりもしかしたらインディーズ界隈をバキバキ調査してるんじゃないだろうかとか思ったりして。これは濃すぎる妄想だけど。
でももうこういうキメの細かいとことか一つ一つの表現の妥協のなさとかほんと昔から一貫してるんだよな。

3.岩井俊二のリアリティ
最後にこの種のリアリティに関してふと思い出す節がある。
岩井俊二監督がのん(能年玲奈)監督の『ribbon』に美術学校の先生役で出演していた場面のことである。
彼はコロナ禍で親だか保護者だかの「授業はいつ再開するのか?」という問い合わせに「いや〜こればっかりはよく分からないんですからね〜。」と応対に困る演技をした時のセリフである。
流石だと思った。見よ、この「分からないんですからね〜」のリアリティよ。
「分からないんですよね」だったら馴れ馴れしいし「分からない」をうまく丁寧に着地させる為に「ですから」を急遽挿入したから生まれるこのギクシャク感、てか我々日常生きててよくやってしまうこのフレーズこそ正に岩井俊二監督作品に一貫しているリアリティである。

付記:星5個付けてるけどもはや500個ぐらい付けてる勢いありますw
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