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キリエのうたのmizukiのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
5.0
歌う時しか声が出ないの、全然可哀想じゃなかった。ルカが一番上手に気持ちをアウトプットできる方法が歌だっただけ。みんなどうなのかわかんないけど、私も普通に、口頭で本心を述べるのは難しくて、本心の間接的な、装飾的な言葉しか発せられないというか…シンパシーを感じた。話したい時にしか話せないのは少しだけ苦労する。でも出てこないものはしょうがない。歌う時しか声が出ないというのは確かに特殊かもしれないけど、多くの人がこれだったらいける!という出力媒体があると思ってる。私は、文章かな。歌も好きだけど、歌は上手くいかないと辛い。でも文章は、上手く書けなくても書くだけで楽しい。ルカにとって歌は、そういうものなのかもなって思った。ルカは歌だけじゃなくて、全ての表現に長けていたけど。
ただ歌うことが楽しいと言うルカに対して、どっかの偉いプロデューサーが「それじゃあプロにはなれないよ」って言ってたの引っかかった。歌のプロ、表現のプロがいるとしたら、それはやめようと思ってもやめることができなくて、ただその瞬間瞬間の感情を実直に出力していく人たちのことなんじゃないかなと思う。誰かさんが言ってるそんなプロになら、一生ならなくていいよ。


震災のシーン、本当に怖かった。揺れや、津波前の緊張感をあそこまで描いた作品は見たことがない。妹が見つからなくて、心配だからどんどん沖の方に近づいていくシーンで涙が止まらなくなりました。私にも大事なきょうだいがいて、正直親よりも何よりも大事で。もし避難しなきゃ!という時に居なかったら、私も探しに行ってしまうかもしれない。目先の愛が、自分を殺し、一番守りたかった人の心を傷つけるかもしれないと、はっとした。きょうだいも私を大事にしてくれているから、同じように私を探すかもしれないな、とも思った。これを機に、家族にはちゃんと「自分の命を最優先させ、とにかく生き残ろう。そしたら後で会えるから。」と話しておこうかなと思った。


ルカの声が出ないのは、ご家族のことを忘れていないことの確固たる証拠になるからではないかと思う。声が出ない=私の傷はまだ残っている=あの時のことを忘れていない、みたいな。声が出ないままでもいいし、出るようになったっていいと、個人的には思う。なっちゃんも、忘れることを怖がっていた。忘れること、傷を理由に慰めてもらう関係をつくることは、罪深いことだと。人間関係ができるきっかけなんて、なんでもいい。人には言えない・うまく説明できない始まりでも。今そこにある関係が一番大事なんだから。ルカの周りの温かい人たちが、みんな誘拐犯疑いになってっちゃうの切なかったな。
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