ハマジン

キリエのうたのハマジンのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
2.0
キッツイ人工甘味料を煮詰めに煮詰めて出来上がった178分の煮凝り猛毒映画。言葉のあらゆる意味で「ヤバい」ブツ。『リップヴァンウィンクルの花嫁』にはかろうじて存在していた作品に対する批評的距離(特に役者陣の功績大)が、今作ではついに岩井俊二的リリシズムとの適正なバランスを失ってしまった感があり、結果、ことあるごとに「正気か?」(「秘儀・ホテルのクローゼット隠し」を見て)「正気かっ!?」(津波警報のさなか「フィアンセ」と呼ぶだの呼ばないだのと、もはや黒い笑いすら漏れるノーテンキな会話をくりひろげる男女の通話を聞いて)「正気か……?」(アイナ・ジ・エンドのライブ(警察包囲のノイズ込み)とカット・バックされる新宿中央公園前での広瀬すずの顛末を見て)、と唖然・呆然を繰り返す疲労困憊のきわみ。
2011年の大阪、2018年の帯広、2023年の東京(とあともう一つ)、計4つの時制を目まぐるしく往還するわりに終盤その効果が尻すぼみになっていく腰砕けなシナリオとか、いちいちうるさい小林武史の劇伴(とある場面で『Kyrie eleison』をご丁寧にも別楽器ver.で2回繰り返す、胸やけするほどのしつっこさ)だとか、全体的に粗雑がすぎる(同一家屋同一室内でカットごとに色調がまったく統一されていない=画面の連続性を放棄してる)くせに、アイナ・ジ・エンドと広瀬すずが海辺や雪原でイチャコラするとこだけはやたらとキマッた画で撮ってたりする謎な撮影(いくら女子高生2人とはいえ、そもそも今時『エターナル・サンシャイン』オマージュな俯瞰アングルを何の躊躇もなくやるヤツがおるか!?おるのか、そうか、さいでっか……)だとか、なんだその電車到着シーンでの意味不明なジャンプカットは、とかもう書きはじめるときりがないんでここらへんにしときます。
とはいえ、若者のナチュラルな発話の芝居を役者につけることのできる監督としては明らかに日本映画随一だと改めて思ったし、中でも特に、現代日本人男性の「怒り」の感情に対する不能を、その醜悪さ込みで異様に生々しく演じてみせた松村北斗は出色だった。
キャリアを通じて「若者の漂流」を撮り続けてきた監督でもあるけれど(その代表的小道具としてのキャリーバッグが印象的)、まだおとぎ話の水準にあった『スワロウテイル』や『リップヴァン~』に比べて、現実の日本の困窮が岩井俊二的世界に追いついてきた感すらあるエンドクレジットの「都心ホームレス生活」描写には、じっとりと厭な汗をかいてしまった。あと、警察といい児相といい「優しさと善意にくるみ込まれた公権力」のいやらしさを描かせたら、もしかしたら是枝裕和以上の巧さなのではないかしら、とも思ったり。いろんな意味で必見。
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