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キリエのうたのmuguetのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
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木の上
ノートに綴る詩
フィアンセ
路上主義
「永遠には続かないよ、そういう時間は」
「こんなのかすり傷」
2人の祈り


岩井俊二監督の最新作。
登場人物一人一人が持つ人間らしさを優しく引き出す描き方、監督の人間に対する眼差しがとても好きだ。

石巻、大阪、帯広、東京と舞台や時系列が移り変わる175分間はあっという間。

アイナ・ジ・エンドはこの映画で初めて存在を知ったのだけどなんたる唯一無二の存在感と声、表現力。スクリーンを通していても「気」みたいなものが彼女から放たれていて目が離せなかった。海辺でイッコと2人寝そべり、「ひとりが好き」を歌うシーン、とても尊くて美しい時間だった。

夏彦という興味深いキャラクターを松村北斗が静かに演じているのも良かった。「自分のしでかしたことをなかったことにしたい気持ちがある」と話す姿はやりきれない思いが込み上げてきて、彼の抱える葛藤を想像した。映画で描かれていなかった夏彦の背景や心情について小説の方で詳しく書かれているみたいなので近々読んでみないと。

映画の余韻に浸っていたくてサウンドトラックをリピートしているけれど、生きることを肯定してくれるような曲ばかりで満たされる思いになる。エンディングで流れた「音痴の聖歌」、灰色の世界を照らす光のようなあたたかい一曲でお気に入り。キリエやルカという名前。讃美歌はキリストが十字架を背負い人々の罪を全て受けてくれたから自分たちが生きている、ということに対する感謝の歌。
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