れおん

キリエのうたのれおんのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
4.3
"歌しか歌えない"キリエは、深夜、新宿の路上でギター片手に一人で歌っていた。彼女にとって歌だけが、居場所だった。飲み会帰りの逸子が彼女の側を通りかかる。「なんか歌って...」 運命に翻弄され、出会いと別れを繰り返しつつ、いま、ここを歩く若者の物語。希望などは見当たらないが、生きるしか選択肢はない。大切な歌と大切な人のために。

「こんなはずじゃなかったよね」
岩井俊二監督・原作・脚本。
一言、欲張り過ぎ。現代社会に蔓延る問題のすべてを一本の映画で描こうとしては、混沌としたまとまりのない物語になることは必然。「音楽映画」と謳っているが、本作は「音楽」を主たる表現とした現代社会に対するアイロニカルなクライムフィクション。

対して、岩井監督の映像作品としての美しさは健在。台詞に落とし込まなくとも映像で魅せてしまう表現。違和感のない場面展開に資する、緻密に計算された構成・編集。映像に浸り、感情を生む余白の時間感覚。されど本作では顕著に"何も起こらない"と"何か起こる"場面でのショットの美しさ・煩雑さに歴然とした差がある。一気に不自然に..... さすがに笑いが止まらなかったり、もどかしさが生まれたりする場面が伺えた。

もっとも、キャスティングミスは否めない。アイナ・ジ・エンドさんにつき、表現者としては才能をお持ちなのだろうけど、映画作品に生きる演者としては、役としてでない個性が溢れすぎているように思える。報知映画賞新人賞、おめでとうございます。

世界はどこにもないよ
だけど いまここを歩くんだ
希望とか見当たらない
だけど あなたがここにいるから

取り扱われている一つひとつのテーマ・主題があまりにも根深く、軽んじた想いは綴れない。ただ総じて、運命には抗えない事象が人生において大半ではあるが、希望など見当たらなくともただひたすらに歩くことで、自分が生きる世界が見つかるものだと、多くの映画から学び、信じている。
れおん

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