近本光司

PERFECT DAYSの近本光司のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
2.5
スカイツリーの麓にある木造二階建ての年季の入ったアパートに居を構え、渋谷区のトイレ掃除の仕事にひたむきに取り組み、ルー・リードやパティ・スミスをカセットで聞き、フォークナーや幸田文を読み、草木を愛でながらつつましい暮らしをする無口な中年男性。
 はたしてこのような人物はいま実在するのだろうか。わたしは映画を観ながら、そんな野暮な問いを振り切ることがどうしてもできなかった。あくまでフィクションなのだから、このさいリアリティは関係がない。「いてもおかしくない」程度ならば、それ以上の追究は無用だ。そういう向きも理解できるけれども、あのラストの長回しでの役所広司の笑みに素直に喰らえるだけのリアリティを信じられていなかった。この作品を撮った人物が異邦人であるという事前知識も邪魔していたかもしれない。そう思う時点でわたしはある種のオリエンタリズムに対して不寛容なのかもしれない。
 一点どうしても許せなかったリアリティの欠落は、浅草地下街の飲み屋で巨人戦を観ていたプロ野球ファンもどきの男たちのくだり。たとえば丸のアイブラックを見て、ドームなのになんで付けてんだよとブウ垂れていた科白があったが、丸のアイブラックはカープ時代から見慣れた光景でしょ。そんなにわかが野球賭博をするなんてありえない。
 あと、どうでもいいけど、浅草のべつの飲み屋の女将が、知らなかったのに幸田文を初見で「こうだあや」と読めたのもダウト! と思いました。どうでもいいんだけど、どうでもよくないよね。