ラウぺ

PERFECT DAYSのラウぺのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.2
東京スカイツリー近くの古アパートに住み、トイレ掃除の仕事をしている平山(役所広司)は朝早くに道路に箒がけをしている音で目覚め、身支度をして担当のトイレに向かう。仕事が終わると行きつけの銭湯に行ったり、地下鉄の駅に隣接する地下街の飲み屋に寄ったりする毎日。寡黙な平山は淡々と丁寧に仕事をこなしているが、同僚のタカシ(柄本時生)とは殆どクチもきかず、なぜトイレ掃除の仕事をしているのか、身寄りは居るのかも良く分らない。そうした平山の日常にも少しずつの違いがあり、平山の人となりや訳ありそうな過去のバックグラウンドが少しずつ明らかになっていく・・・

この映画は渋谷区内に気鋭のデザイナーなどの協力でユニバーサルデザインのトイレを設置する計画「THE TOKYO TOILET」のPRに短編のオムニバス映画が企画され、その監督にヴィム・ヴェンダースが起用されたのがきっかけとのこと。

平山は東京の雑踏の中で、トイレの利用者に見向きもされず、あるときは邪魔者のような扱いを受けたり、同僚のタカシからも変人のような目で見られているが、その中でも仕事の合間に木漏れ日を眺めたり、フィルムカメラで木漏れ日の写真を撮ったりして、小さな楽しみを見つけていたりする。
家の中で殆ど家具らしいものがないなかで、カセットテープと本の棚だけはそれなりのボリュームがあり、もみじの芽を大切に持ち帰って家の中で育てていたりする。
ストイックでミニマルな生活を送る平山が淡々とトイレ掃除の仕事をこなす様子は、東京の景色と合わさって一般に日本人の美徳と考えられているであろう質素で勤勉な様子をまさしく絵に描いたような描写であり、小津安二郎に傾倒するというヴィム・ヴェンダースが東京で映画を撮るとこうなる、というイメージそのままといった感じ。
丁寧な描写の積み重ねで人の心の機微を描写するヴィム・ヴェンダースの美徳はこうしうた現代の東京というステージで最高度に発揮されて、役所広司の殆ど無表情といっていい抑えた演技の中に内に潜む過去やさまざまな想いが見え隠れする様子が、なんとも愛おしく感じられるのです。

毎日の平凡な繰り返しの描写が淡々と繰り返される描写は外形的には『ジャンヌ・ディエルマン~』的であり、その過程で心の内面が僅かずつに見え隠れするところも確かに似ているところですが、思いもよらぬ形でジャンヌの内面が噴出する『ジャンヌ・ディエルマン~』とは違い、平山が突如ブチ切れ!なんてことがあるわけでなし、ちょっとした出来事がさざ波のように微かに観る者の心に響くさりげなさが、いかにもヴィム・ヴェンダースらしい。
毎日が繰り返されるところの節目に必ず挿入される木漏れ日にその日の起きたエポックな出来事のフラグメントが重ね合わされて、平山の心に何が印象に残ったのかをさりげなく見せる。
変わらない日常の中にも少しずつ違う出来事があり、まったく同じ日常はないのだ。そういう日々を大切にしていきたい、という想いが、心に沁みるのでした。
蛇足ながら、最後までちゃんと観ると”KOMOREBI”についての監督の想いがより明確な形で提示されます。

こうした和風としか言いようのない風情の味わいは、やはり日本というところで撮影が行われたことでより明確になったところでもあるでしょうし、ある意味で直球ともいえるこうした素直な表現は、むしろ日本人の監督が行うよりも、グローバルな視点で今の日本の特質を見極めることができる外国人の監督であるからこそ、可能になったのかもしれない、などと思うのでした。
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