コマミー

PERFECT DAYSのコマミーのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.4
【光と影】




"ヴィム・ヴェンダース"…小津安二郎を敬愛し、これまで「パリ、テキサス」や「ベルリン天使の詩」など、数々の名作を生み出してきた。
そんなヴェンダース監督は、これまで小津安二郎が描いた東京と近代化した東京を映したドキュメンタリー「東京画」やファッションデザイナー:山本耀司を映した「都市とモードのビデオノート」、そして総指揮として参加した「クローンは故郷をめざす」と度々"日本や日本人を映した作品"を輩出したことでも知られ、更に、写真家として知られる妻のドナータと共に京都の風景を写した写真展を2006年に開催したりして、結構な割合で日本との繋がりが高い。

そんなヴェンダースが、"渋谷のトイレ"を刷新する為に輩出したプロジェクト「THE TOKYO TOILET」の"プロジェクトの一環"として、PRを目的とした短編映画製作の監督としてヴェンダースが監督として起用され、日本人の"プロ意識能力"の魅力を更に深掘りする為に、本作が制作されることになった。



率直な感想で言うと、本当に素晴らしかった。
いわゆる本作は、"トイレの清掃員の日常"を通じて、彼の人生は飾りがないように見えて、実は日々"小さな変化の連続の繰り返し"であることを描いている作品だ。単調な作業をしていると、自分の人生にちょっとでも変化を求めようとしがちだし、それは決して悪い事ではないが、実はその"ちょっとした変化や幸せ"に気づいてないだけで、それを毎日主人公の"平山"は噛み締めながら生きている事を描いた作品なのだ。
そんな平山の感性を描いた演出というのが、劇中でも現実や平山が寝ている時に見る夢の中に度々出てくる"木漏れ日"で美しく表現されており、平山はこの至って単調な人生の中で、ちょっとずつ"光と影"がゆっくり入れ替わる日々を送っている事を表している。

そしてそんな"光と影の表情"を平山から感じ取れる演出がまさにラストで一気に表現されていて、そんな平山の表情を見た瞬間、私からは涙が溢れ出そうになったのだ。そんな平山の表情を表現した"役所さん"の演技は本当に素晴らしかった。
本作と似たような風景を描いた作品として、ジム・ジャームッシュの「パターソン」が頭の中をよぎったし、皆さんの大半もそうであろう。「パターソン」でも、主人公パターソンの七日間の日々を通して、パターソンに訪れる光から影そしてまた光の日々を描いた作品となっている。

しかしながら、平山に関してはパターソンの日々と違って、私を含める周りの人にとってはこれからも遠い光を目指して"泣きそうになりながらもがいている"人間に見えてしまい、それを少し"美化"してしまっている所は芸術としてはありきたりかもしれないし、危険なものにもなっていると感じた。

つまりは、本作はリアリティよりも芸術性に結果的に重点を置いた作品だという事だ。
平山の行動や人柄の中にも「これは大丈夫か?」「そんな事ある?」というシーンもあり、一見ちゃんとした日本の姿を描いている作品に見えて、やはりこの"リアリティの欠如"が「PRのための映画」と言われても仕方ない要素となってしまい、とても残念だなと感じざるを得なかった。

ヴィム・ヴェンダースの作品の中では、一番見やすく、多くの日本人に見られた作品である事は間違いないが、結果的に役所さんの演技で助けられた作品だし、ヴィム・ヴェンダースが描きたかった日本の姿は本当にこれで良かったのか?と疑問にも感じてしまう作品にもなってしまった。
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