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PERFECT DAYSのSQURのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
どの映画でもあることだが、観ている最中に、ふっと頭が別のことを考え始める。マインドワンダリングする。

例えば、曙光の下町がうっすらと青味を帯びて見えて、漫画『ブルー・ピリオド』の主人公が「渋谷の朝は青い」と話していたことを思い出す。

そうしてしばらく映画とは関係のない、頭に浮かんだイメージに気を取られていると、画面の中でなにか変化が生じる。慌てて意識を映画に戻す。
その後に、「あ、今別のこと考えてしまってたな」とうっすら思う。

ときに、登場人物の感情に気を取られることもある。特に顔が大きく映されたときなど。この人は今悲しいのかな、嬉しいのかな、と想像する。嬉しいならそれはどういう嬉しさだろうと考える。
また、そうして想像した嬉しさを自分でも感じてしまう、ということもある。自分が、その人として、その場にいて、同じことをしたかのように感じることもある。

また、それを意図的にしてみようとすることもある。
例えば、この映画の中で主人公が布団にもたれかかって、畳をトントントトンと軽く指で叩く。映画を観ながら、そのリズムを真似てみて、どういう気持ちなのか考える。
そしてときに、考えすぎていることに気づく。頭の中のことに注意を取られていたなと思う。

また別のときには、なにも考えない。ただその画面の中の美しさに自分がいることを忘れる。
ときには何故だか分からず嬉しくなったり涙が出てくることがある。
そのあと、今この人もきっとそうなのではないかと考えることもある(この映画の最後のように)。

逆のこともある。映画のフレームが気になる。隣の人が泣いているのか気になる。姿勢が気になる。脚のだるさ、場内の湿度や気温。ポップコーンの匂い。

またときには、登場人物の過去を想像したり、未来を想ったりする。どういうふうに生きてきたのだろう。なにを大切にしたいと思い、なにに迷ってきたのか。これからどういうふうに生きていくのだろう。

映画を観ている途中で、演者や製作者の気持ちを考えることもある。なにを考えて演じているのかな。なにを思ってこの角度から撮ったんだろう。

映画を観ている間の意識は、だいたいそんなふうにゆらゆらとしている。
そして、この映画は、そういったことがいっそう強く感じられた。


おじさんが、「妹とは住んでいる世界が違う」と、姪に話す。
「そんなことないだろうな」とそれを聞いて、私は思う。同時に、「その通りだろうな。全員が別々の世界を生きている」とも思う。
彼女はそれを聞いて、どう思っただろうか?
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