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PERFECT DAYSのmのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.3
日本や東京に対するヴェンダースの幻想とスマホのない時代への懐古をある世捨て人の(いまいち非現実的な)質素な生活にのせた、一種のファンタジーかつインテリのお遊びという感じ。幻想は抱いてもらえるうちが花なので、こういう映画があっても別にいいとは思う。

けど、「教養のある肉体労働者」「インテリの乞食」みたいなものが受けるのは、それが知識人にとってギリギリ理解可能な下層の他者であるからですよね、と思ってしまう。
フォークナーやハイスミスのような海外文学を読み、70〜80年代の洋楽のカセットを聴きながら出勤する、公衆トイレ清掃員の役所広司。富裕な家庭の出身だけど、父親との確執があって今の生活を送っていることが仄めかされる。
リアリティを追求するなら、車内で流れるのは昔のアイドルソングかもしれないし、休日に訪れるのは古本屋ではなくパチンコ屋かもしれないし、スマホを持っていてソシャゲに課金してるかもしれない。内輪受けではない、異物としての他者を本当に描く気があるならそうなるはずだと思う。でもそれではこの映画のような美しい物語にはならない。私はファンタジーよりリアルが観たいけど。

世界に疑問を提起するような作品ではなく、役所広司の姪の名前がニコなのはヴェルヴェッツからだな、と気づくような層が内輪で楽しむための作品なんだろうと思った。
田中泯の異物感をもっと映してほしかった気もする。(ホームレスですら鑑賞される芸術としてしか描かれないことの歪さはある)
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