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PERFECT DAYSのcーfilmsのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.6
トイレの清掃員が主人公ということでご不浄がたびたび出てくるにもかかわらず、なんて美しい映画を見たのだろう、という印象。職業に貴賎はないとはいえ、人々にどこか蔑まれながら、しかし主人公の心はいつも潤っていて豊か。過去ではなく未来ではなく、今のこの一瞬を大切に生き、木漏れ日の無常を愛でるように、すべての事象の今を愛する。出かける準備の所作、トイレ掃除の段取り…それらはどこか修行僧や茶道のお手前のようでもあり、端正でストイック。いつかテレビで密着していた空港のベテラン清掃員を思い出す。熟練のしぐさを完全に自分に落とし込んで演じる役所広司。いろんなものを削ぎ落とした純度の高い顔が美しい。ラストの表情には鳥肌が立つほどの凄みが。あの表情の内側は?平山が過去に捨ててきたものやあきらめてきたことが顔を出したのか?穏やかなだけではない狂おしい思いをそっと鎮めて、また静かに生きていく。平山の夢のパートは特にヴェンダースらしさを感じる映像だった。東京のアートなトイレも楽しかったな。

ちなみに劇中の公衆トイレにはもちろん汚物など写っていません。これは映画なので。そこからリアルを想像したいのであれば、それは観客の仕事。もしくは平山の目にはトイレの汚れはあるべきものであって汚いものではないのかも。
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