TS

PERFECT DAYSのTSのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
【あるトイレ清掃員の日々】85点
ーーーーーーーーーーーーー
監督:ヴィム・ヴェンダース
製作国:日本/ドイツ
ジャンル:ドラマ
収録時間:124分
ーーーーーーーーーーーーー
 2023年劇場鑑賞51本目。
 今年最後の劇場鑑賞としたいと思います。今年は50本鑑賞と決めてまして、51本なのは、『タイタニック』を入れているためであり、新作でいうとちょうど50本となりました。トリを飾る今作ですが、相当評価が高い中、僕も今作はかなり良い映画と感じました。というか、久々に「本物の映画を観た」という感覚になりました。ここでいう本物の映画って何?と聞かれると難しいのですが、主演俳優の演技力で全てを物語れるというのは、本物の映画の要素の一つではないでしょうか。今作の良い要素はたくさんあるのですが、なんといっても役所広司の名演、これに尽きます。これだけ口数が少ないのに、さまざまな心境を表現できるのは素晴らしいと思います。役所広司は今作でカンヌの男優賞を受賞してるわけで、世界が認める名優となったということになります。

 東京のとあるアパート。規則正しい生活を送る平山は、公衆トイレの清掃員であり、朝早くから車を出して黙々と清掃をする。そんな中、思いがけない出来事が起きるのだが。。

 出だしからもう傑作の匂いが醸し出されています。近所の人の箒ではく音で目が覚める平山は、歯を磨いて、植物に霧吹きで水をやり、玄関の貴重品をとり、家前の古びた自動販売機でコーヒーを購入してから仕事場へ向かいます。このルーティンを見るだけで何故だかわくわくしてしまいます。昨今の社畜化している人にありがちな、絶望の朝ではないからです。平山は外に出た時、いつも空を見上げるのですが、この表情がまた素晴らしい。彼にとっては素晴らしい日の始まりなのです。さて、そこから大事にしているカセットテープでお気に入りの音楽を流し、朝日を浴びながら職場に向かう平山。トイレの清掃を黙々とこなしていくのですが、ここはお仕事ムービー要素があり、非常に興味深くみてしまいます。というか、東京の公衆トイレって凄いですね。あの、中からフィルターがかかるトイレって本当にあるのでしょうか?少なくとも僕はあのようなトイレを見たことはありません笑 途中で彼の部下が遅刻してやってきますが、特にお咎めはせずにせっせと二人で作業をしていきます。仕事後は開店と同時に銭湯にいき汚れを落とし、そして帰り道で行きつけの居酒屋でレモンハイ?を飲み帰宅。就寝前は寝落ちするまで読書(ジャケットに映るシーン)をするというもの。このルーティンの日々を今作は何日も描いていきます。

 こんな同じようなことずっとしていたら流石に鑑賞者も飽きてくるのでは?と思えるかもしれませんが、不思議なことに飽きません。それどころか、同じ日は1日たりともありませんで、わずかな違いを見つけるのが面白くなってしまいます。思えば我々も毎日同じように出勤していますが、同じ日など一つもありません。どんなことがあっても、平山は人生を楽しんでおり、毎日が最高の日だと噛み締めているのです。なので、あらすじで思いがけないことが起きる、と書きましたが正直平山にとっては大したことではなく、それを補完する出来事が常に起きるので、平山は前に進めるのです。

 ということで、起承転結があるような作品ではなく、悪くいうと退屈ではあるのですが、退屈だったから駄作、という感想は今のところほとんど見受けられません。ほとんどの鑑賞者は、この無限のように続く平山の一日にある種の共感を抱き、またその些細な変化を役所広司が巧みな演技で表しているのでそこに感心してしまっているのでしょう。起承転結がありアクションが豊富な映画を「動の映画」としたら、この映画はその真逆をいく「静の映画」でしょう。もしこれが、平山が滅茶苦茶喋る主人公なら台無しでしたでしょうし、本当にただの退屈な映画となり得たでしょう。そのバランスを熟知している役所広司という俳優には脱帽ですし、さらにいうとこの日本の独特な雰囲気をそのままおさめたヴィム・ヴェンダースという監督も只者ではありません。いやむしろ、外国の監督だからこそ、我々が忘れかけていた日本の侘び寂び文化にちなんだ雰囲気の作品を描けたのではないかと思えてしまいます。良い映画を撮るために、必ずしもたくさんセリフがあればいいってものではないのでしょう。

 まさにPERFECT DAYS。今年最後にふさわしい映画でありました。
TS

TS