ノラネコの呑んで観るシネマ

PERFECT DAYSのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.7
21世紀に入ってからのヴェンダースで、たぶん一番面白い。
東京で公衆トイレの清掃員として働く、役所広司の日常。
墨東の昭和なアパートに一人住み、仕事場は渋谷周辺。
この人異様に無口な上にキッチリとした性格で、毎日の行動のルーティンが決まっている。
仕事して、銭湯で汗を流し、馴染みの飲み屋で一杯やり、好きな本を読み、いい夢を見る。
たまにパーフェクトな毎日のルーティンを崩す存在が現れるのだが、それもまた大切な一期一会。
物語は淡々と進み、特に大きな事件は起こらないが、流れる空気が心地よい。
ただ、かなり特殊なキャラクターのパーソナルな物語であって、これに社会性を見出すことは難しい。
主人公の背景は殆ど描かれないが、質素な生活をしているものの、元から貧乏という訳では無さそうだ。
あくまでも選択した結果としての、トイレ清掃員の暮らし。
だから主人公の設定だけを見て、現代日本の社会問題的なイシューを期待すると完全に肩透かし。
出て来る公衆トイレが渋谷の公園などのオシャレ系で、最初から別に汚くない所ばかりなのも、主人公の仕事と暮らしを社会性と結び付けられたくないからだろう。
主人公の何気ない生活を通して、ふと見上げた木漏れ日の美しさや、日常に散りばめられている喜怒哀楽に気付かされる。
優し過ぎて物足りない人もいるかも知れない、そんな映画だ。
ブログ記事:
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