テルヒサ

PERFECT DAYSのテルヒサのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.9
東京でトイレの清掃員として生きる男の、「何も変わらないはず」の日々。
セリフこそほぼないが、一つ一つの目線、表情、沈黙の中で多くの感情を抱いている平山という男の日々にとにかく見入った。セリフや音楽を最小限にすることで、役所広司演じる主人公の心中を察したり重ねたりする時間を堪能することになるのだが、これが心地良くもあり、哀愁に似たものも感じる。
同僚に同情して金を渡すくだりや、家出した姪への感情、ラストの男との川辺での会話など、色んなシーンで彼の人となりや心のざわつきみたいなものが見え隠れしていて、終始その演技に惹きつけられた。
周りの人や親族にどんな目を向けられようと、小さい草花を愛したり、子供のバイバイに微笑んだり、○×ゲームに興じたり、銭湯で老人に優しく風を送ったり、誰かの友情にはにかんだりできる心で生きていきたいと思えた。
ホームレスの田中泯はなかなか存在感があった。
画面やアングルは次第に色んなアングルが感情の波や変化に合わせて増えていった印象。こういう作品のためなのか、照明はその場面やキャラクターの感情を引き立たせようとしている意図が強かった気がする。
何度も映るスカイツリーは、彼を見守っているようにも見えたし、大都会東京の中で細々と生きる彼の生活とのギャップや皮肉にも見えたし、凄い建物がある場所でも自分達なりに今を生きていく種類の日本人がスカイツリーに向ける目線を暗喩しているようにも思えた。あの意図をどう解釈するかも鑑賞後の楽しみの一つ。
全編通して木漏れ日のカットがよかった。
現像した写真はなぜ仕分けたくなくなったのか。
姪っ子を送るときの妹のセリフ、あの涙の意味は何なのか。
影が濃くなるとか、影踏みするあの本音の前後のくだりのシーンはかなり記憶に残るもの。
彼の過去や性格に疑問を持つのをやめ、ただ今の生活を味わい、少しの変化も受け入れていく様子を観ていくと、とても魅力的だった。ラストシーンでは言葉にはならない感情が高まっていた。良作。
「今度は今度。今は今。」
テルヒサ

テルヒサ