CHICORITA主任

PERFECT DAYSのCHICORITA主任のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.7
役所広司が主演し、全編日本語セリフ・日本ロケで撮影された作品。製作のきっかけは渋谷区の公衆トイレのリニューアルプロジェクトである「THE TOKYO TOILET」のPR短編企画で、それが発展して長編作品へと変化したのが本作。

主人公はトイレの清掃員の男・平山。毎朝、隣人が箒で道を掃く音で目覚め、歯磨き・髭剃りを済ませ、缶コーヒーを買い、バンに乗り込み、カセットで音楽をかけ、仕事に向かう。仕事の合間には神社で昼食を摂り、「友達」の木の写真を撮る。仕事が終わると銭湯で汗を流し、行きつけの店でいつものメニューで一杯やる。夜は眠気に負けるまで読書し、眠りにつく。休みの日にはコインランドリーで洗濯。日曜にだけおしゃれして美人のママのいる店にでかけ、彼女の歌声に耳を傾ける…
そんな変わらない日常を少しずつアングルやテンポを変えて繰り返し描きます。この描写の積み重ねには、ジム・ジャームッシュ監督『パターソン』が想起されました。

中盤以降は、姪や妹との久々の再会や、仕事の同僚の突然の退職、店のママの元夫との思わぬ邂逅などにより、平山の日常が揺さぶられ、まるで木漏れ日のように人々の人生が垣間見えます。多くを語らず、明確な答えも出すことはありませんが、その余白から感じられるそれぞれの人生の苦難や豊かさに、深い感動を覚えました。

また画面構成や撮影が非常に素晴らしく、見慣れた東京風景がとても特別で美しいものに思えます。画角がスタンダードサイズなのもごくごくパーソナルな作品である本作にはマッチしていたように思えます。

音楽の使い方も平山の移動中にカーステレオから流れるのみという限定的なものですが、歌詞の意味が画面の展開に重ねられ、効果的で印象的なものでした。

ところどころ見え隠れする「トイレ掃除」という仕事に対する差別意識など、ゾクっとするような鋭さも持ち合わせた作品で、世界的クリエイターの作る映画の重厚さを感じさせました。

淡々とした静かなタイプの映画ですが、こういう作品こそ劇場で観るべき一本と思います。年末の映画納めに最適なので、ぜひとも劇場でご覧下さい。
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