建野友保

PERFECT DAYSの建野友保のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.6
公共トイレを丹念に掃除するというルーチンな日々を過ごしつつ、100円の文庫本と名盤のカセットを愛し、ささやかな酒を楽しむ平山(役所広司)。鑑賞直後は、宮澤賢治の「雨ニモマケズ」の一節が不意に浮かぶような、貧しくも清く生きる平山のライフスタイルへの共感に満たされていただけですが、これは「人生の選択」を巡る物語ではないかと、後から気づきました。
後半、運転手付きの高級車で彼の妹が平山を訪ねてきます。おそらく平山は、オーナー社長の長男(跡取り)という宿命をもって生まれたことが窺えます。でもその宿命をきっぱりと捨てて、父親とは真反対の、今の静かな日々を選んだのではないか。そのことに気づいてから、この作品がとても愛おしい作品に思えてきました。
彼が住むうらぶれたアパートの向こうに聳えるスカイツリーは、かつての自分の宿命、あるいは父親を象徴しているのかもしれません。それを眺めつつも、今の生活を愛おしく思いながら自転車を漕ぐ平山の日々は、まさしく「Perfect Days」。自分の人生は自分が選択できる。そして自分の人生を選択した平山に、仄かな羨望を抱いてやってくる姪っ子。
さらに想像をたくましくすれば、過去を捨てた平山と、過去を悔いる男(三浦友和)との影踏みは、過去という影を弔う者どうしの戯れごとにも思えてきます。
そんなことを考えると、つくづく、よくできた作品だなあと。役所広司も素晴らしいけど、三浦友和もまた素晴らしかったです。
PS)平山が必ずしも積極的に「過去を捨てた」のではなく、「過去から逃げてきた」という見方をする方もいらっしゃるよう。確かに、そういう見方もあり得ますね。どちらにせよ、木漏れ日の美しさに見とれたり、今の生活を愛おしく思う肯定的な生き方には共感を覚えます。
建野友保

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