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PERFECT DAYSのjazzyhalのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.8
今回はとても個人的な感想です。
映画そのものについては他の方のレビューを参照にされたほうがよいでしょう。
上映後に言語化できない、
少しふわふわとした妙な気持ちがゆっくりと、こみあげてきました。

「すばらしい映画であることに間違いはないが、この映画をまっすぐに評価できない自分がどこかにいる。評価したくないというか、認めたくない、」ともいうべきか。


それが果たして何なのか、
どこからきたものなのか、今回は、
自分自身が心を整理するための
文章でもあります。
長文ご容赦ください。
※お読みになる場合は3,4を最初に読まれる方が良いかもしれません。

1.
この冒頭に定義した、矛盾する自問自答が生まれるのは、
映画全体から、「あざとさ」のようなものの影を薄々と感じたからだと思う。
映画自体はとても普遍的なものを描こうとしているものの、それとは違う、刹那的な商売っ気というか野暮ったさ、そういったものがこみあげてくるのだ。
企画自体に、少しばかりの「あざとさ」があるからだろうか。特殊な変遷を経て製作されたものだからだろうか。
「こんな映画がつくりたかった、こんな生活はどうですか、皆さん。」という、
本作を少しだけ俯瞰から見ているものの視線が、存在が、背後にチラチラと伺える。
そして、この視点は富める者から育まれたものであることを私は感じてしまうのだ。
劇中で描かれている登場人物は、富める者は決してそう多くは出てこないというのに。
これがシンプルに私の気持ちの邪魔をする。

※企画・プロデュース・脚本を悪くいうつもりはございません。ヴェンダース監督を日本に呼んでくれて、作品を産んでくれてまずは感謝したいです。

2.
こう私が感じてしまうのはなぜだろうか。
プライベートな事も影響しているのかもしれない。
それは平山さんが住む、EAST SIDE OF TOKYOに自身が住んでいるからだろうか、だから、余計にそう感じるのかもしれないし、どこかで受け入れたくない気持ちが芽生えるのかもしれない。
(実際に私はこのロケ地近くの劇場で鑑賞した)
もしくは、私が日本に住んでおり、母国の役者が出ていて、母国語で喋るからこそ、この(本来感じなくてもよい)嫌味な部分までをも余計に感じ取ってしまうのか。
おそらく海外の人が見ると、綺麗な東京の表層面のみを理解するだろうから。

この表層的な美しさ、禅・仏道修行にも似た厳かな日々が、下町でえぐみのあるはずの東京の下町界隈で繰り返されるからこそ、
私はある種のえぐみみたいなものを感じてしまうのだろう。
飲み込めるようで飲み込めない、
喉に引っかかる感じ。
これが感動した私の感情に、
後から後から少しずつ覆いかぶさってくるのだ。

そう、まとめると、
映画自体に罪はないのかもしれない。
悪いのは現代の東京、現代の日本なのかしれないにのに。しかし、こういった部分を少なからず感じさせうる仕上がりであるからこそ、本作が賛否を分けている所以なのかもしれない。

3.
映画そのものについてようやく触れる。
内容自体はさすがヴィム・ヴェンダースといった稀有な出来栄えの一作である。
お見事である。

そしてその上に光輝く、
役所広司の演技は、一見の価値がある。
演技というより、平山さんと同化した彼の生きざまには、もはや感動するより他ないだろう。

彼が平山さんと同化するあのシーンを、
スクリーンに見つめ続ける間、
私達はとても素晴らしい映像体験をすることができる。
それだけで、この映画は見る価値があるといえるだろう。

4.
1,2で長々と記述した思いをまとめると、

私の社会派的な考えやポリシーと、
本作に描かれる世界観との
相違故にどこか素直になれないのだろう。

ここ現代日本の東京で、
こんな綺麗な世界の中だけで、
生きていけるなんて、
まずもってありえないではないか、
まるで御伽話のようではあるまいか。
と、少しばかり感情的になり、
いやともすると意地っ張りになって、

この映画を素直に評価したくはない
という反骨心を産んでいるだけかも
しれない。

時間が経てば、私はこの映画を
もっと素直に評価することが
できるだろうか。

だがしかし、
私が今こうして素直になれず、
反骨しようとするのは、
あたかも、

平山さんが何かに反骨しようとして、
あの生活をあえて選んだかのようでもあるかもしれない。

(私は彼の生き様をそう解釈しました、元は富める者であったはずです)

そう考えると、なんだか私は笑えてきてしまい、こりゃまんまと一本取られたな、
とも思ってしまいました。

いずれにせよ、2023年を代表する一本の一つであることには変わらないでしょう。
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