カルダモン

PERFECT DAYSのカルダモンのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.2
同じ時間に起きて
布団を畳んで
歯を磨いて
植物に水をやって
支度して
玄関を出て
空模様をみて
いつもの缶コーヒーを買って
車に乗って
カセットで音楽を聴いて
トイレ掃除をして
昼ごはんを食べて
一枚写真を撮って
銭湯に行って
布団を敷いて
本を読んで
寝落ちする


ボロアパートに暮らし、トイレ清掃員として働く平山の日々はずっと同じように繰り返される。一見すると質素な生活。けれども目を凝らしてみると彼の生活は困窮しているわけでもなく、流されてここにいるわけでもないことがわかる。平山のはっきりとした意思。彼はおそらく金に困っていない。妹がブルジョワであることから想像するに生まれは裕福な家庭だが、そんな自分の過去や生い立ちから逃げている。

風通しの良い自分だけの世界。完全なプライベート空間であるトイレのように、安心していられる場所を求めて今の生活を意図的に作っている。

でもそれは健全なのか。一人を望んでいたとしても。変わらないように見える毎日の中で、複雑に変化する人と人の重なりに気付かされる瞬間。実は側に人がいてくれる嬉しさ、ありがたさ。一人だと思っていても誰かが誰かに依存している。誰かがいてくれるから一人でいられる。公衆トイレってのもそういう優しい場所。些細な変化をヴェンダースは木漏れ日に例える。この映画に同情する登場人物は断片的にしか素性はわからないけれども決して無関係ではない。些細な関係の交わりに気付かせてくれる。

音楽使いがちょっとズルいけど、やっばり好きな曲がかかると無条件に嬉しくなって何割マシにもなってしまう。ルーリードの『パーフェクトデイ』を聴いてしまったらそのまま『Hangin' Round』、『ワイルド・サイドを歩け』と続けてアルバムを流しっぱにしたくなっちゃう。当然のように帰り道に『トランスフォーマー』を聴いた。パティ・スミスも『Redondo Beach』という意外な曲がフィーチャーされて新鮮。ニーナシモン の『feeling good』は平山の表情を含めて全身シビレました。

ヨゴレ仕事のヨゴレっぷりをこの映画では排除しているし、渋谷区を中心としたデザイナーズトイレが現場なので、いわゆる一般的な清掃員の仕事は描かれない。そこに一抹の渋谷区トイレプロジェクトの意識を感じて見ようによってはくさいものに蓋をしている感も無くはない。ただ、あからさまな企業意図を発しているかというとそういうわけでもないし、なにしろ役所広司の語らない存在感と表情の変化、特にラストの複雑な感情は深く刺さる。


年末は観たい映画が山積み。あともう一本と思いつつ2023年の映画納めはこの『パーフェクトデイズ』ということになりました。2024年もパーフェクトと言える日々があってもなくても、どっちでもいいじゃんという健康な日が続きますように。

今年もお世話になりました。
また来年もよろしくお願いいたします。