メッチ

PERFECT DAYSのメッチのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.9
同じことを繰り返す毎日でも、一瞬一瞬は同じとは限らない。自ら選んだ生き方には美しさがある。

本作は、役所広司さんが演じる平山という公衆トイレの清掃員の男の日常を描くという簡素な作品。朝起きたら育てている植物に水を与えて、支度をして車に乗ったら担当する公衆トイレへと出勤していく。そんな彼の一日が繰り返されますが、一日一日が全く同じではない。出勤する車内で聴く音楽も違えば、その日の天気も違う。
それは、彼が休憩中にフィルムカメラで撮影する木漏れ日のように、同じ風景でも全く同じとは限らない。もちろんお話はそれだけでなく、仕事の後輩に振り回されたり、突然姪っ子が訪れることで彼の過去を少し知るような気がするそんなお話し。

しかし、彼はなぜ結婚せず、また公衆トイレの清掃員として生きるのかを明確に説明はしていません。彼の過去を知れる情報みたいなものは所々に散りばめて、この物語をみている側に彼がどんな人生を送ってきたのかを委ねている。

そこで、なぜ公衆トイレの清掃員として生きるのかを私なりに考えてみましたが、結果的にはっきりした答えは出ていません。ただ、父親との意見のズレや過去に絶望みたいなものがあったのではないかと思いました。

例えば、劇中に流れるルー・リードの楽曲『パーフェクト・デイ』。この歌詞に「自分の蒔いた種は、自分ですべて刈り取らなければならない。」というのがあります。これは、なんだか罪滅ぼしのようにもみえる彼の生き方を説明しているかのようにみえて仕方がない。

また、姪っ子の母親(平山の妹)との会話を聞いている限り、平山は父親と喧嘩したのか明確ではありませんが、絶縁をしたようで会うこともせずに今まで生きてきたようにもみえました。平山の妹の身なりをみる限り、実業家またはその妻のためなのか裕福な暮らしをしている。平山の父親もそうであれば、尚更平山が公衆トイレの清掃員として今の生き方がしたかったのか疑問が残ります。

「世界は一つに繋がっているようにみえているが、実はそうではない」というフレーズが作中にありましたが、それに同感してしまいます。奴隷制度や部落差別がない現代でも格差による扱いの違いがあるように私は思いますし、作中でも描かれていました。
例えば、トイレの清掃員の彼に対して、ウェットティッシュで手を拭く行為や清掃中の看板を倒しても何事もなく立ち去られるなど、何かみえない格差をみせられた気がします。でも、彼は怒り一つなく澄んだ空のようにしている。意地とか信念とかではないと思いますが、こういう生き方をしたいからしているという想いみたいなものを感じました。
もともと、違う生き方をしていたが何か分岐点があって今の生き方をしているから、「あの時のあれと比べればなんでもない」というような余裕さでしょうか。もう少しわかりやすく例え話をするのであれば、ブラック企業に勤めていた人がホワイト企業へ転職して、そこでイレギュラーな事態に陥っても「あの時と比べれば余裕」というような過去に培ったゆとり。違う世界を生きていたが、今の世界に生きているからそんな心の余裕さが彼にはあった気がしました。

最後に、本作のエンドロール後にテロップが出ますが、そのテロップの言葉の意味を含めて1つの作品。といいますか、これは本作に限らず全ての作品にいえることですがねw
あの言葉の意味は平山の生き方を象徴することでした。なので、みていた私もあの言葉を胸に刻んで生きてみようと思わされました。

【2023年ベスト3位】
メッチ

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