あぶりかんぱち

PERFECT DAYSのあぶりかんぱちのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

小さいスクリーンだったのもあってかほぼ満員!期待の高さが始まる前から感じられたけど、その通りの中身になってて満足しました。でも、見終えた後の何とも言えない感情を数週間ほど反芻し、今感想をまとめるまでに至りました。

中身はすごくシンプルでした。
朝起きる、歯を磨く、着替えるといった朝から始まって仕事のトイレ掃除に勤しむ姿、仕事が終わって銭湯の一番風呂に浸る姿、行きつけの飲み屋で一息つく姿、そして本を読みながら眠りにつくまでが割と淡々と流れていく。

お決まりの缶コーヒーと好きなカセットテープを流しながら愛車で仕事に向かったり、何でもない人との交流を楽しめたり、姪っ子に慕われたりと、何不自由なく暮らしているように見える。

でも心のどこかで「それが本当の幸せではない」と思っている自分自身が居る。

…この「自分は幸せだ」と必死に自分に言い聞かせるように、もしくは「自分は幸せではない」ということから目を背けるように生きていく姿が、最後の役所広司の渾身のカットなんだろうなと思い至った時に、

『誰かと幸せや生き方を比べるのは不毛なのに、誰かと関わり合って生きていく必要があるから他人の幸せや生き方を気にかけてしまう…何てこの世は生きづらいんだろう』

と思ってしまいました。

極力言葉を発さない役所広司扮する「平山」という男の生き方だって素晴らしいのに、『何か足りない』『何かに振り回される』『どこか後ろめたい』といった感情から心が乱されていく。
自分自身がベストを尽くしたところで、他人の存在で自分の心が揺らぐ。
かなり悲観的な描き方ではありますが、『自分にとって完璧な世界だとしても、世界はあなた1人のものではない』というのがこの映画の肝なのかな…と思いました。

ただ、このテーマも切り取り方によっちゃいくらでもポジティブに切り替えられるので、こういった物語を静謐かつ繊細に、見てる側に考える余白を設けつつ描き、えも言われぬ鑑賞後の感情を残すのは流石だなと思います。

2023のラストにこれを観られたのはラッキーでした。間違いなく秀作です。
あぶりかんぱち

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