松原慶太

PERFECT DAYSの松原慶太のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.7
ヴェンダースが日本を舞台に映画を撮った、そう聞いて、おのずと「東京画」(小津映画のおもかげをもとめて東京にやってきた若きヴェンダースが、索漠とした現代東京に幻滅するドキュメンタリー)を思い出した。

ぼくは本作を観る前、なんとなくこの映画は「東京画」への、なんらかのアンサーになっているのではないかと思っていたのだが、その予想は外れた。直接的な関係はなかった。ただ、彼が東京を描く解像度は「東京画」のころよりもはるかに上がっている。

ヴェンダースはインタビューに答えている。「日本を舞台に日本の役者と映画を撮る。そうするとおのずと小津作品のすがたが、よくも悪くも現れざるをえない」「しかし表面的に小津のやりかた(ローアングルや固定カメラなど)を真似してはいけないと思った」。

そのとおり、この映画は小津作品には似ていないし、その他どの邦画作品にも似ていない。しかし是枝裕和、黒沢清、濱口竜介の諸作品と並んでいてもまったく違和感がない、邦画らしい映画になっている。これは驚くべきことだと思う。

まったくドラマらしいドラマは起きない。感動するようなストーリーもない。くりかえされるルーティーンとささやかな出来事しか起きない。でも、そのささやかな出来事(たとえば姪っ子が訪ねてきて、クルマの中でVan Morrisonの「Brown Eyed Girl 」を聞く)に、目頭が熱くなった。
松原慶太

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