パンカ

PERFECT DAYSのパンカのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

波風の立たない人生はない。
そして往々にして思い通りに行かないことも多い。
それでも、人生は素晴らしい。

主人公は家族もなく、決して裕福とは言えない・・・いやむしろ暮らし向きは低層とも言えそうだ。
映画に登場する一般の人達は、仕事中の彼を見向きもしない。
それでも彼は、平凡な繰り返しの毎日を静かな充足と共に過ごしている。

物語の中でははっきりと語られないが、主人公は若い頃に父親との関係が上手く行かず、恐らくは裕福だが空虚な生活を捨てて今の生活を選んだものと思われる。
そして、その平凡な繰り返しの毎日こそが彼にとって幸せなのだ。木々の間から差し込む、木漏れ日でさえも・・・

仕事仲間の若い男とその彼女、家出して来た姪っ子とその母親(主人公の妹)、憧れの小料理屋のママとその別れた夫・・・ 
登場人物が1人現れるごとに、男の平凡な毎日は波にさらわれるが如く乱される。
その度、我々は口数少ない主人公のことを理解していく。
そして男は、毎日のルーティンを丁寧にこなすことで平凡だが幸せな毎日に戻っていく・・・
同じはずのルーティンが少しずつ違って見えるところは秀逸だ。

BGMとして、60年代〜70年代の音楽が流れる。主に、主人公が車で聴くカセット・テープを介して。
歌が主人公や登場人物の心境を表している場面も多いようだ。パティ・スミス、ルー・リード(パーフェクト・デイってこんな素敵な歌だったっけか!)、ニーナ・シモン(かな?)・・・
音楽も媒体としての「カセット」も古いものだが、中古レコード屋で高い値段かついているように、主人公の生活や価値観は古いけど味があるよー、というメタファーかもしれない。

ラスト、運転しながら主人公は、微笑んだり、泣きそうになりながらそれでも微笑んだり・・・
口こそ動かさないものの、まるでカセットで流れる歌を口ずさんでいる、噛み締めているようだった。
そう、主人公は一度も歌ったり口笛を吹いたりしないんだよなぁ。なんか意味があるのかな?

不思議な余韻に包まれる映画だった。
そして、自分の平凡な毎日を(少しは)愛おしく思えそうな気がした。
パンカ

パンカ