とりん

PERFECT DAYSのとりんのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.1
2023年101本目(映画館40本目)

ヴィム・ヴェンダースが監督、役所広司が主演を務めた、東京の公共トイレの清掃員・平山を描いた物語。
彼の日常を切り取ったような作品で、ルーティーンとも呼べる決まった行動をとって日々過ごしている平山。彼の生活には大きい起伏はないけれど、決して退屈と呼べるものでもなく、日常の中に見つける小さな出来事に笑顔をこぼしてしまうような充実した生活を送っているように見てとれた。
変わり映えのない毎日に時折揺らぎが起きる。後輩が車を貸してくれと言ってきたり、姪が訪ねてきたり、急に後輩がやめたり、行けつけの銭湯が潰れたり。元々無口な平山だから、彼の表情や行動、周りの様子などからいろんな部分を汲み取ったりするのだけど、それがまた良い。
平山がどんな人物なのか背景とか特に説明があるわけでもない。でもそれは節々に散りばめられていて、観ていると彼がどういう人物か妹が出てきた時の言葉の端や車からも元は良い家の子、厳しい父がいたと言うこともわかる。だから違う世界で生きているというのも納得できる。本当にそうだと思う、ひとつの世界で生きてるとはいえ、その中に区切られた世界はいくつもあるし、自分とは違う世界の人とは普段交えることもない。自分と平山についてもそうである。

劇中では何か大きな出来事は起きず、ただただ平山の日常が綴られる。こんな映像をずっと見続けたいなって思いも生まれたりする。
平山が特に丁寧なのもあるが、公衆トイレってあそこまで綺麗に掃除してくださってるんだな。他にもこんな公衆トイレがあるんだと驚きや発見があったりしたのも面白かった。
終盤で語られる影の重なりについての話は印象的だった。あの平山の言葉の節に彼自身の想いも感じられた。夢を見ている際に出てくる木漏れ日のモノローグじみた部分もこの作品には大事な要素のひとつであり、その言葉と繋がりを感じる。残念ながらしっかりと意図までは汲めなかったが、最後に木漏れ日の説明が出た時にいろいろと腑に落ちた。

そして何より役所広司の自然体な演技が良かった。無口ではあるけど、全く喋らないわけではなく、必要があること話すし、姪っ子や行きつけの店ではちゃんと話す。お茶目な一面もある。彼をすごく愛しくなる場面もある。
他にもちょい役でこの人も出てるのというサプライズもたくさん散りばめられてる。

ジム・ジャームッシュの「パターソン」を彷彿させると書いてる人がいたけど、それはすごく頷けた。ただ切り取られた日常かもしれないけれど、すごく丁寧に描いているのが伝わってくるし、おそらく日本人監督で同じ題材の作品作ろうとしてもこんな雰囲気にはならないのではないかな。視点とかも含めて。
年の瀬に心の奥がジンと温かくなる作品が観れて良かった。
とりん

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