obutan

PERFECT DAYSのobutanのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.5
賛否両論とか言われてたから、どんなもんかと思って観に行ったら本当に素晴らしい映画じゃないの!

トイレプロジェクトやらスポンサーやらどうのとか言われてたけど、この映画はそのバックグラウンドにある政治性を超え、それらが求めた要求をずらしていこうとする意図がしっかり伝わってくるじゃないか!

確かに登場人物同士の対話や最後の説明は不自然なものに感じたけど、それはこの映画が人間同士の対話によるコミュニケーションを主題に置いたものではないからとも言える。言葉の妙みたいなものをちゃんと描こうとすると言語の違いによる壁は大きいから、そこに重きを置かなくても、画で見せることができるのが映画の強みだし。ましてや、紋切り型の主題に対して、紋切り型の言葉を発し、淀みなくやり過ごすことが「対話」と呼ばれてしまうような時代に、安易な対話で構成された人間関係を撮ることにどれほどの意味があるか…。

モノや自然を支配するわけでもなく、それによって自身の人生が形作られていることを知っている役所広司の世界は、人間のみで(しかも軽薄な対話しかなさないような関係性の下での)構成されている世界観と決定的に異なっている。一つの画面の中で美しく配置されるモノと光はあまりにも美しく、この世界が私たちだけのために存在しているのではないということを教えてくれる。

あのオリンパスのコンパクトカメラが画面に出た時に、私が子供の時から大学に入るまでずっとあのカメラで私のことを撮ってくれたおじいちゃんを思い出した。車椅子の上でおじいちゃんは、真剣な目つきで、あの横開きのカバーを曲がった手であけ、いつも同じ場所に私を立たせて写真を撮っていたんだった。

私たちの記憶は、こういうモノや場所を媒介にして、いつも思い出されるものだ。
だからこそ、ためらいながらも、木を友達と呼び、カセットや文庫本、フィルムのコンパクトカメラをあの時と変わらずに使い続ける役所広司の姿は、この映画のスポンサーに象徴されるようなファスト○○やジェントリフィケーションへのアンチテーゼにも十分なっているように思えるし、その世界を美しく撮ろうとすることへの明確な意思を感じた。だから、日常があまりに美しく描かれているというのは、そりゃそうだろう、そうやって撮ろうとしてるんだから、といった感じ。

資本主義の泥舟に乗って、破滅まっしぐらの道しかないように思っちゃう瞬間が今はあまりにも多いけど、「そうではない世界」の構想をいくつもいくつも作り上げていかなきゃいけない。映画にはそれができる。だから好きだ。
obutan

obutan