ツクヨミ

PERFECT DAYSのツクヨミのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.8
なんでもない男の日常と人々との交流が生み出す非日常が組み合わさる、これぞヴェンダース映画。
ヴィム・ヴェンダース監督作品。ついにヴェンダースが邦画を手がけた、2023年カンヌ映画祭にて役所広司が男優賞を受賞したりとけっこう評価良いらしく楽しみに見に行ってみた。
まあ本作はシンプル極まりないくらい一人の男の日常を描くというジャームッシュの"パターソン"みたいな作品に見える、しかしやはりというかそんなありきたりな日常の中で人々と出会うことにより話が動き出す点が突出して見えた。
ヴェンダース監督作品の中では最近見た"ことの次第"が個人的に記憶に残っており、"ストーリーを入れるとリアリティが消えていく"みたいなセリフがマジでヴェンダース映画を物語っていて好きだ、例に漏れず今作もその格言がしっくりくる。主人公平山の生活はルーティン化し早朝起床から仕事.帰宅風呂飲み屋で晩酌就寝まで一日目はアケルマン"ジャンヌディエルマン..."とまではいかないがしっかりとした流れが生きていた。だが次の日からはちょっとしたアクシデントがあったりして同じような日でも少し違う出来事が人生を輝かせる。そんな事が一際見えるのが同僚男に車を貸して欲しいと言われたことから始まる非日常だ、ヴェンダース映画の主人公は他人との絡みから動き出すことが多く"パリ、テキサス"なりに無口な平山もしっかりヴェンダース作品の主人公でそこはやっぱりニコニコしてしまう。
あとはやはりというかヴェンダースの邦画ということで、小津安二郎の存在について語るのは必然か。"東京画"でど直球な小津愛を見せたヴェンダースであったが今作ではそれも"匂う"レベルまで下げてあるというべきか、"麦秋"的な幸福のイメージに始まり"東京物語"を思わせる姪っ子の来訪などちょっと香る程度が逆に良かった。日常と非日常が絡み合う話に散りばめられた小津要素、まさにヴェンダースと小津の夢のコラボレーションとも言える仕様には拍手したくなる。オマージュではなく香る程度の小津っぽい要素ちらつかせ、めちゃくちゃ良かったなぁ。
あと時折顔を出す夢のシークエンスが妙に怖いと思ったらこれは"狂った一頁"のオマージュなんじゃなかろうか、現実の出来事がモノクロで積み重なるようにディゾルブしていく映像がすごい。
いやしかしなんとも良いエピソードが多くて和むというか、だがそんな中で姪っ子とのシークエンスは最後ちょっと泣けたぐらい。見えない平山の過去が表情演技と共に香ってくるようで、全体的にあまり言葉で語らない仕様が素晴らしく機能していたなと改めて感じる。たしかに"こんなふうに生きていけたなら"と思う作品であったが、もはや癒し映画とも言える妙。"パリ、テキサス"みたいな孤独エンドとも言えるが役所広司の顔面クローズアップでこんな泣けるなんて思わなんだぞ、ヴェンダース映画の中でもかなりの当たりだったのではなかろうか大好き。
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