高井戸三郎

PERFECT DAYSの高井戸三郎のネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

なんでも変わっていく。盆栽が伸びる緩慢さで、しかし、取り壊されて空き地が現れる唐突さで。

周遊という言葉が、平山の生活にはよく似合う。
それは、平山(周吉)という名を与えられたという以上のことだ。
そして、それはただの繰り返しではない。
いま磨いている便器、いま浸かっている湯、いま目の前に置かれた一杯の酒、いま迎えた新しい一日。
それは"こんど"ではなく、あくまで"いま"なのだ。
「こんどはこんど、いまはいま」なのだ。

"PERFECT DAYS"、完璧な日々。
おそらく重要なのは、複数形、"々"であることだ。
本作では、時間はまず、円環として提示される。変わり映えのしない毎日。
東京という、零度を中心に据えた都市での、匿名的な毎日。
しかし、スカイツリーを中心とした円を周回するような平山の毎日にも、確かな変化は訪れている。
それは、描かれはしないが、別の世界、別の中心を持つ円との交差、平たくいえば、突然の姪との交流であり、今生の別れの予感を孕んだ妹との抱擁であり、つまりは木漏れ日を撮らえるということだ。

スカイツリーを仰角で撮らえた印象的なショットは、その事実を物語っている。
真上=真下から見た円は、仰ぎ見れば螺旋を描いているのかもしれない。
同じように見えて同じことなど無い、"日々"があるのだ。
それこそが、わたしが毎年、『東京物語』を見る理由なのかもしれない。
高井戸三郎

高井戸三郎