ぼさー

PERFECT DAYSのぼさーのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
映画としては珍しいループ物の構造を持った作品。2023年に流行った8番出口というループ系ホラーゲームがある。同じシーンをループしながら微妙な差異を8回見つけると脱出できるシンプルなゲームだ。本作は8番出口に似た構造とリズム感があるように感じた。

本作は、役所広司演じる平山の日常のループの繰り返しのなかにちょっとした出来事が挟み込まれて物語が進行する構造になっている。
平山のワンパターンな日常の映像描写が美しく心地よい。そんな心地よい日常に登場人物たちとの出来事がノイズのように挟み込まれ、平山の日常が少なからず乱される様が描かれる。

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東京の渋谷区各所に設置されているデザイナーズ公衆トイレの清掃風景が、平山による茶の湯のような所作で繰り返し映し出される。そういう普段の、そして不断の営みを通して平山という人物が描かれ、その平山の視点を通して、東京の渋谷や浅草で暮らす人々の日常が描かれる。
平山が極力話さないことで平山の視点を観客が持てるように演出されているように感じた。平山が考えてることを言葉で説明しちゃったら台無しと感じるくらい映像描写が美しい。

平山から見た東京という街はどんな風だろうか?
ふぅ〜と吐息を吐いて目覚め、住宅街の樹木のさざめきを見て微笑む。出かける準備をし終えて玄関ドアから出ると一呼吸して、朝焼けの東京の空を仰ぎ見る。雨の日も晴れの日も曇りの日も、東京の街は今日も美しい。平山は微笑む。

そんな平山の様を見て、東京に暮らすことの美しさにあやかりたいと思う。平山のように東京の美しい日常を愛したいと思う。公衆トイレ掃除という不衛生な環境に身を置いていても美しいルーティンを演出できることが示されていて励まされる。

「木漏れ日」は日本語にしかない言葉らしい。それはつまり海外では木漏れ日がイメージする概念がないと言うこと。日本独特の概念。
木漏れ日というのはSunlightがLeavesによって邪魔されて起きる現象・様子。平山が木漏れ日を愛する気持ちを本作では東京での日常に置き換えていたように思う。SunlightがLeavesによって邪魔されることを不快と思わず美しいと思う感性。海外の人たちに伝わるといいな。

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日本最古の地下街「浅草地下商店街」、隅田川にかかる桜橋、恵比寿タコ公園こと東公園、代々木公園隣接の小公園など。それら自分もよく散歩する場所が頻繁に登場して、平山が微笑む東京の風景たちを一緒に満喫できた。

僕もフィルムカメラで写真を撮っているし、一昨年ラジカセを買って昔聴いていたカセットテープも聴いたりしている。やってないのは植物と読書、飲酒くらいかな。平山と似通った趣味を楽しんでいるので自然と共感できる内容だった。
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