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PERFECT DAYSのotaのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.3
サブカル中年の夢を体現したような清貧で文化的で豊かな生活が終始映し出される。ヴィムヴェンダースと役所広司の圧倒的な手腕による映像的な心地良さに溢れており、特に物語が無くてもずっと観ていられた。

その一方で、渋谷区のトイレがあんなに秩序が保たれている訳ないだろうという思いが巡る。汚いし、トラブルも絶えないし、差別的な対応ももっと残酷だろう。

トイレの清掃員が一番直面するであろうそれらの事象を明らかに、意図的に削ぎ落とした作りになっている。漂白されたカッコ付きの「PERFECT」を見ている気分に段々となってくる。平山が撮影する写真は、情報を削ぎ落としたモノクロであり、その他に摂取する情報も全て自分でコントロールできるものに限られている。小説とカセットから流れる昔の音楽と相撲と野球。

物語の中盤、現像した写真を取捨選択する印象的なシーンがある。平山は気に入らない自分にとって美しくない写真は破って捨ててしまう。メタ的な視点と物語が明快にクロスオーバーする瞬間である。

物語が進むにつれ平山は富裕層だったが何らかの理由により現在の暮らしを選択したのだと示唆される。このカッコ付きの「PERFECT」な日々の中でしか生きることのできない男が、美しい朝陽(夕陽?)に照らされながら喜怒哀楽全ての表情を見せるラストシーン(役所広司凄かった)で、しんどいし完璧なことなんて中々ない現実を戦っている人間らしい表情をやっと見れた、そんな気がした。
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