なお

PERFECT DAYSのなおのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.2
2024年の映画初めは本作から。

公開自体は昨年であり、日本・ドイツの共同制作作品。
『パリ、テキサス』『ミリオンダラー・ホテル』などの作品で知られるヴィム・ヴェンダース監督がメガホンを取った。

✏️THE TOKYO TOILET
まず本作を語る上で外せないのが、本作の主人公・平山の勤め先でもある「THE TOKYO TOILET」の存在。

これは何かというと、「汚い、臭い、暗い、怖い」という公衆トイレのイメージを払拭すべく立ち上がった、世界的に活動するクリエイター16人による共同プロジェクトのこと。

東京都渋谷区に存在する「4K」な公衆トイレを、
「安全で」
「清潔で」
「誰もが利用できる」
そんなトイレへと生まれ変わらせることをミッションとする。

先述のクリエイター陣のみならず、トイレの現状調査や設置機器の協力にTOTO、設計施工に大和ハウス工業、出資にファーストリテイリング取締役・柳井康治氏が関わるなど、官民連携しての一大プロジェクトとなった。

✏️泣き、笑い、生きていく。
さて本編の感想。

この映画で描かれるのは、東京の下町に住むとあるトイレ清掃員・平山の日常。
それがどうして、こんなに面白い。

この作品は、平山を演じた役所広司の圧倒的な演技力・そして表現力なくしては成立しなかっただろう。

劇中、平山にセリフらしいセリフは本当に少ない。
けれども、言葉として表に出てこない平山の考えや胸中、感情までもがひしひしと見ているこちら側に伝わってくるのだ。
平山の表情をしっかりと捉えるカメラワークも良かった。

本作を見て改めて思ったこと。
人生って、本当に「なんでもない瞬間の積み重ね」でできているんだよな、ということ。

朝起きたら顔を洗って歯を磨いて身支度をして。
植物に水をやったら、決まった場所に置いてある鍵と財布を取り出して家を出て、特に意味もなく空を見上げてみる。
それが終われば愛飲している缶コーヒーのプルタブを開け、クルマに乗り込みさあ仕事へ。

平山にとってのこれらの何でもない「日常」、ひいてはその生活音までもが小気味よいテンポで描かれており、今風の言い方をすればASMRの如く脳に響き渡る。
他人から見れば単なる日常でも、本人から見れば「完璧な一日」なのだ。

こうした何気ない日々の積み重ねに、「ちょっとしたイベント」が挟まってくるもんだから、人生はたまらなく面白い。

平山にとってみれば、自宅にやってきた突然の訪問者、急遽退職することになった仕事仲間、行きつけの店でのアクシデント…
自分だけでなくきっとこれをご覧になっている皆様にも「ちょっとしたイベント」が巻き起こっているはずだ。

ラストシーン。
愛車の中で、平山が見せたあの表情。
泣きそうで、泣かない、笑いそうで、笑わない。
「悲喜こもごも」平山のあの表情、あれこそが人生だと、そう思った。

☑️まとめ
自分が感じた「人生の面白み」以外に、ヴェンダース監督は日本人が持つ「プロ意識」「職人気質」についてもメッセージを込めたようだ。

たしかに印象的なシーンのひとつに、平山が掃除した直後のトイレを利用者が使う、という場面がある。
「どうだ。俺が綺麗にしたトイレは」と言わんばかりに笑みを浮かべる平山。あの表情は今も心に残っている。

「世界は、誰かの仕事でできている」
これは平山も愛飲していたBOSS──ではなくて残念ながらジョージアのCMキャッチコピーだけれど、本当にその通りだよなぁ、と。
トイレが世界一綺麗な国、日本。
その綺麗さは、平山のような清掃員の方たちに支えられている。

世界は、誰かの仕事と、誰かの日常でできている。

<作品スコア>
😂笑 い:★★★★☆
😲驚 き:★★★★☆
🥲感 動:★★★★☆
📖物 語:★★★★☆
🏃‍♂️テンポ:★★★★★

🎬2024年鑑賞数:1(1)
※カッコ内は劇場鑑賞数
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