KOTAYOSHIDA

PERFECT DAYSのKOTAYOSHIDAのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

良かった。とにかく役所広司の演技と音楽が素晴らしく、劇的なことは何も起きない日々の営みを淡々と映し出した内容にも関わらず、役所広司が空を見上げて微笑むだけで世界が輝いて見えて、この世界が素晴らしいものに思えてくる、その瞬間には何物にも代え難い豊かさがあった。

ただ個人的には美しい映画だと感じるのと同時に残酷な映画だとも感じた。確かに本作の役所広司演じる平山の人生は豊かなもののように思える。繰り返しの日々が実は素晴らしいものなんだよというなという気持ちも非常に分かる。しかし美し過ぎる。美化し過ぎてはないかとも思う。

劇中で平山が自ら言っているように平山自身は「違う世界」で生きていると自認している。これは劇中で描かれる平山自身のバックグラウンド(おそらく富豪の過程でその家の教えや価値観)とは「違う世界」という意味なのかもしれないけれど、個人的には我々が暮らしている現実世界とは「違う価値観」という意味に取れた。それくらい達観している。世捨て人的でもあり仙人的でもあった。例えば平山が自分の身内だとして自分事として考えると、平山の妹のようなリアクションになるのが普通だとも感じる。平山の生きる人生を否定するつもりは無いが、現在の高齢化社会や実際に平山のような年齢の方々が実際に日々肉体労働をしている事、そういった諸々の日本社会の現状を考えると、どうしても私は「その人が幸せと思えればそれは幸せな人生だよね」という消費の仕方をすることはできなかった。柄本時生演じるタカシも叫んでいた「金が無きゃ恋愛もできない」と。これだって高齢化社会に密接につながっている問題だ。

勿論人の人生の豊かさは人それぞれではある。ただだからといって現在の社会が抱える構造的な欠陥を無視して思考停止することはできない。もちろん映画はめちゃくちゃ良かった。平山の仕事に対するひたむきさを見て改めて自分も仕事に対して真摯になろうと思った。ただ映画を観て一晩経って感じるのはそんなモヤモヤばかりである。そして考え続ける為にもこの映画をこれからも記憶していきたい。そう思わせてくれる秀作でした。
KOTAYOSHIDA

KOTAYOSHIDA